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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


「ご馳走様でした、美味しかったです!」
「お粗末様でした、お口にあったみたいで良かったわ」
「はい! 今度このお惣菜のレシピ教えてくださいね!」
「ええ、今度ね。今夜はもう寝ましょう。疲れてるでしょ?」
「私、体力だけは人並み以上なんでそんなことないですよ?」
「そうかしら? でも、少し疲れた顔してるもの。また明日、お話しましょう?」

楽しい会話の中で食事が終わり、満足そうな朱里に寝ることを促す呉羽はまだ話足りなさそうな表情の朱里にクスリと笑いながらすっと手を伸ばし頬を撫でる。
人心地ついて緊張がほぐれる頃だ、散歩を通り越した所から確実に溜まっていた緊張による疲労が出る頃でもある。
呉羽はそっと安心させるように指の背で頬を撫でて肩をトントンと叩く。
呉羽の目には不満そうな表情の朱里の周囲に、揺らぐパステルカラーの青と緑が入り混じった光が見えている。
本人の霊力でもあり、常に発している生命力でもある。感情の高ぶりや内容で色味が変わったり揺らいだりする。
自覚のない疲労が確実に朱里の中に溜まっていることが手に取る様に解った。これは刀剣たちでも一部の者にしか教えていない呉羽の特殊な能力である。
社交面以外ではあまり役に立つことはない上に、幼い頃や今でも疎ましい記憶を植え付ける原因になることもある能力だが今は丁度良いと呉羽は悟られぬように苦く笑う。
とんとん、と肩から背に移動した手を動かすと徐々に眠気を自覚し始めたのか朱里が目をこすり始める。

「明石、悪いけどお膳の片付けお願いね?」
「布団はどないしはりますん?」
「そうね、客間から一組運んでちょうだい」
「はいはい、そう言うと思いましたわ。ほんなら、ちょい行ってきます」

うつらうつらし始めた朱里をそっと横たえさせて座布団を枕に寝るように促すと、ほどなくしてすやすやと小さな寝息を立て始める。
呉羽はそれを見て微笑ましげに笑むと、控えていた明石に諸々を頼んで自分の肩に羽織っていた上着を朱里に掛けると布団を二組敷けるように部屋を整える。
脇に寄せた文机には途中だった執務が置いてあるが今日はもう店じまいである。
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