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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


「おかえり、湯加減は大丈夫だった?」
「はい! ありがとうございました」
「どういたしまして。汚れ物は洗っておくからそこの籠へ入れておいてちょうだいな」
「あ……でも」
「迷惑とかじゃないから大丈夫よ。それとも、やっぱり他所の本丸だから気になる?」
「いえっ!」

入口の前でばったりと会った三人は、呉羽がにこやかに朱里に声を掛け、手がふさがった主の代わりに障子を開けた明石が横に避けて先に審神者二人を室内へ促した。
普段やる気がない割に、こういう細かい気配りが出来るから近侍から降りられない明石である。本人に自覚はないが、チラリと明石を見た呉羽の視線には謝辞が込められていることを察して明石が僅かばかり笑って最後に室内に入ると障子を閉める。
室内は僅かにほの暗く、料理の乗った膳台を適当な場所に置くと呉羽が火を灯す行燈の数を増やす。
朱里が促されて座布団に座ると適当に置かれたと思った膳台は丁度目の前に来る場所に据えられ、湯気が上がっていた。

「お口に合うか判らないけど、どうぞ?」
「いただきます」

部屋が明るくなるようにと月が照っている側の障子も開けられ、整えられた庭を眺めながら朱里が膳に手を付けると傍の座布団に腰を落ち着けた呉羽が楽しげに眺める。
時折交わされる会話は審神者としての情報交換であったり、やはり朱里も女性であるのだろうお洒落や着物に関する話題で呉羽も女性らしく返事を返している。
少し離れた所でそれを本当に、本当に複雑そうな表情で眺めているのは明石だが何か口を挟もうとすれば鋭い睨みが朱里の知らぬ所で飛んでくるのだからたちが悪い。
完全に現状を面白がっている主にため息しか出ない。実は呉羽の本丸で一番常識人の苦労性であるのは明石である。
何気に長谷部はすっかりと馴染んで主命で突き進んでおり、女性の姿をしている時には呉羽を女性として扱っていたりするのだからたちが悪いというものである。
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