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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


「朱里?」
「……楓さんの馬鹿っ! もう、知らないっ!」
「朱里っ!」

楓は離れた朱里の様子に、訝しげに名前を呼んだ。しかし、楓が手を伸ばして引き寄せようとしたときには、涙を目一杯溜めた朱里が力一杯叫んで踵を返し駆けて行く。
呼びとめようと叫んだ楓は、一気に使った力の反動でその場に倒れ掛け朱里を引き留めることも出来ずそのまま気を失った。
気が付くと、真っ黒な空間に立っていた。何もない、どこまでも闇に包まれたその空間はねっとりとした空気が身体に纏わりついてくる。

「どこだ……本丸じゃないな、だが、この気配……」
「小僧、朱里を泣かすなと言っただろう?」
「ぐっ……ちょっ、まっ?!」
「理由によっては、このまま亡き者にしてくれよう」

闇が何か、探ろうとした瞬間にとんでもない圧力で地面に叩きつけるように圧迫された楓は、早々に耐え切れずその場に膝をつく。
耳元でゾクリとするほどの殺気を含んだ冷たい声が響き、首筋に刃物が付きつけられる感覚が頬を引きつらせる。
その声に聞き覚えのあった楓は、マジか……と内心で零しながらも圧迫感が徐々に強まって呼吸もままならなくなってくるのを必死に抵抗する。
実質的な圧力ではなく、霊力による圧迫だと肌で感じているので必死にそれを振り絞る。

「待っ、た、ほんと、待って……」
「この程度で言葉もろくに口に出来ないとは、ほんに情けない……」
「ほっ、っといて、くれっ! くそっ! まじ、待てって!」
「仕方ない、言い訳くらいは聞いてやる猶予をやろう」

圧迫を強くしながらも、楓を貶める相手になんとか叫び返しながら訴えるとふっと圧力が消えて楽になる。楓はその場でぐったりと横たわりながら、なんとか頭だけ上げて自分を見下ろしている気配を確認した。
紙の面で顔を隠した濃紺の装束を着た男、それは案の定朱里の一族の当主と会いに行った時に居たモノである。

「マジか……」
「まじだ。して、早く理由を言え」
「……朱里の、おばあさんの庭を作ろうとしてたんだよ。内緒で、驚かせて、喜ばせたくて……」
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