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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


執務室に向かって行くと、途中で明石が捕まえて応対しているのが見えた。

「あ、楓さん!」
「いらっしゃい、もう執務終わったのか?」
「うん! それで遊びに来たんだけど……楓さん、調子悪い?」
「いや? 別に悪くないが……」
「ほんと? あのね、さっきお邪魔した瞬間に楓さんの本丸が揺らいだ気がしたの、だから調子が悪いのかなって」
「そうか? 朱里の気のせいじゃないか?」

自分を見て嬉しそうに笑う朱里に、楓もふわりと笑みを浮かべて近づくと抱き着いてくるのを受け止める。
全身びしょ濡れになるほどにはやっていなかったので、既に滲んでいた汗もその痕跡もない。
しかし、直ぐに少し離れて顔を覗きこんでくる朱里に内心で焦りながら、問われた内容に軽く首を傾げてみせる。
楓は油断していた自覚がある。朱里はまだ執務中だと高を括っていたのだ、その来ない予定の人間が入ってきた瞬間に動揺して庭だけでなく本丸全体が揺らいでしまった。
朱里は現時点で楓よりも霊力も質も上だというのも、傍で接していればおのずと理解できていた。
自分が交わることでその質が落ちないかと不安になることも、少なからずあった。揺らげば問い詰められるだろうことは予想の範疇内である。
しかし、揺らぎは一瞬で留められたのは確かなようで、確証はないまでも不安だと朱里の表情が物語っている。
素直に体調が悪い、そう言えば良いのかもしれないとは思ったが、楓は朱里の気のせいだと告げた。

「嘘……だって、確かに一瞬だったけど揺らいでた!」
「そんなことないよ。別に何もなかったし、なぁ、明石?」
「……へぇ、特に異常はないですし、主はんはいつも通りふてぶてしいですからねぇ」

やはり……と、楓は内心苦る。朱里が不調やそれに関することで、違うと伝えても譲る性格ではない。確かめさせてもいいが、そろそろ疲労度は頂点になりつつある。
明石も巻き込んでアイコンタクトで否定させれば、朱里の瞳には見る間に涙が溜まっていった。
楓がそれを拭って大丈夫だと告げようとすると、するりとその手を逃れて朱里が離れていく。
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