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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


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楓がこんのすけに頼んで取り寄せた道具で霊力の底上げを始めて一か月と少しが経過した。
装着時間はそろそろ半日になり、それなりに底上げは上手くいっていると言える状況である。

「んー……庭一つ増やすのにどれくらい使うのか、まぁ、凝り方にもよるけどそろそろ大丈夫だと思うんだけどなぁ……」
「主はん?」
「明石、ちょっと付き合え」
「は?」

執務の合間、休憩しようと声を掛けてお茶を取りに行かせていた明石が戻った頃、楓はお茶を手にせず明石の襟首をがっしと掴むと立ち上がる。
庭を作る場所はいずれ離れでも作ろうかと思っている位置である。
がっしと掴まれた瞬間に反射的に盆をテーブルに降ろした明石が、何かを言う間もなくズルズルと引きずられていくのに首が締まらない様に必死に歩いてついていく。

「ちょ、ちょっ、主はんっ! 待ったってくださいてっ!」
「うし、到着……。周り見とけよ」
「ごほっ……何が何だかわからんのですけど」
「文句言うな。今の霊力でどの程度の庭が増築できるか試すんだよ」
「ああ……なる……。そしたら、その辺見てきますさかいどうぞ」

楓の理不尽には慣れたものである明石は、簡潔な返事に漸く納得したように頷いて文句を飲みこむとその場を離れていく。
本丸の奥の方なので、基本的に誰も来ない。楓は意識を集中すると写真に収め眺めていた庭を思い出しイメージする。
ゆっくりと揺らぎながら目の前に新しい土地がじわりじわりと広がり出す。しかし、イメージしたままの庭を造り出すのはなかなか至難の技である。新しい土地自体は簡単に現れるが、その上の庭は陽炎のように揺らぐ。
それらを保って維持しようとする楓の額には、じんわりと汗がにじみ出ていた。

「くぅ……マジか、まだ足りねぇの?」

目を開き、目の前の土地になかなか定着しない庭を見て、足りないと思った瞬間だった。楓は自分の本丸の敷地に誰かが入ってきたのを感じて、ビクリと身体を跳ねさせると慌てて目の前の庭を消す。
入ってきた気配は敷地を広げるために集中していたからか簡単に分かった。朱里である。入った瞬間に一瞬立ち止まった気配まで、見えもしないのに把握してしまい背中に冷たい汗が滑る。
バレたか? そう思いながらも実際に見られていないなら誤魔化せるかもしれないとズルい考えをする。
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