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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


万歳をした途端、片っ端から食べようとする朱里を膝丸が慌てて窘めるが、籠の中を覗いて押し黙る。
楓が持ってきた籠の中には一口サイズのお菓子がずらっと、大きい物はパウンドケーキぐらいだが、それも食べやすい大きさにカットされてキャンディーの様に包装されている。

「執務中だと思ってたんで、やりながら食えるようにしたんだが……」

籠から外れた膝丸の視線の、その呆れを含んでいる意味が解らず首を傾げて説明する楓に膝丸は疲れた様にため息を吐くと無言で立ち上がり出て行ってしまう。
ほどなくお茶を持ってきた数珠丸も早々に出て行ってしまったので、膝丸のその態度の理由が解らず楓は難しい顔をする。

「楓さん、楓さん」
「ん?」
「あーん……」

朱里の隣に座って考え込んでいた楓は、朱里に名前を呼ばれてそちらを見ると口元にマドレーヌが差し出された。
あーん、というお決まりの文句を口にして、照れながらも期待に満ちた目で見てくる朱里に楓はふっと笑うと考えるのを止めて差し出されたそれを口に入れた。
当然、それを摘まんでいた指も含んでちゅっと可愛らしい音を立てる、という悪戯を仕掛けた楓に真っ赤になった朱里が口をパクパクとさせるのを目を細めて眺める。
楓のこういう時折起こす悪戯に大分慣れはしてきたが、恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。
場所が場所なせいもあるだろうと、楓は真っ赤になって俯いてしまった朱里の頭を撫でてまた菓子を食べる様促しながら先ほどの疑問は遠くへ投げ捨てることにした。
そうして夕暮れまで一緒に過ごし自分の本丸に戻ったその夜、明石から膝丸の視線の理由を聞いて微妙な気分になるのはまた別の話である。
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