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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


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楓の本丸の厨は現在、甘い匂いが漂う空間となっている。
真っ黒なエプロンを嵌めた光忠が、自分の本丸用の仕上げをしている横で作業が終わった楓は手早く着けていたソムリエエプロンを外すと冷めたお菓子を籠に詰める。
自分の本丸で食べれるだろう分量だけ残して、籠に入りきらない分も違う箱に詰め終ると光忠に声を掛けた。

「じゃあ、後は頼むな、光忠」
「了解。そこのは適当に配っておくから、朱里さんによろしくね」
「ああ」

大量に貰った苺だが、楓の本丸の刀剣たちはその味覚や嗜好も楓に引きずられるのか渡されれば食べるが好んで甘い物や果物を口にする者が少なかったりする。
楓自身も食べはするが少ない量で満足してしまうので、最終的に苺の大半を焼酎と氷砂糖で漬けて果実酒にしたりジャムにしたりした。
本日はその大量に出来上がった加工品で楓がやる気を出して、更に朱里が好きそうな菓子へと加工したのだ。
それを楓の本丸で好んで食べる刀剣たち用の分だけ取り分けて、残りは全て朱里の本丸へ持ち込むために今から移動しようというところである。
楓は朱里用の籠に入れたのと、ごちゃまぜに――とはいえ、きちんと種類別に分けてはある――した箱とを抱え厨を出る。
甘い物が苦手だったり好んで食べない者は一つ摘まめれば充分ということで、持ち込むのが結構な量になったのはご愛嬌だろう。
敷地堺になっている樹木の間を抜けて朱里の本丸の敷地に入る。隣り合わせになった時はさすがに驚いたが、そろそろ一か月を超えて二か月に突入しかけているため慣れたものだ。

「こんにちは、朱里居る?」
「大将ならまだ執務室だぜ」
「薬研、サンキュー。あ、明石が持ってるのは貰った苺の加工品で作った菓子。お前らの分だから他の刀剣のやつらと分けてくれ」
「ああ、ありがたく頂くよ。そろそろ休憩時間だから、丁度いいんじゃないか?」
「ん、行ってみるわ」

明石に薬研を手伝うように告げて、楓はいい加減勝手知ったる本丸を執務室に向かって歩く。
まだ本丸に遊びに来ていた頃は遠慮して一人案内役にと頼んでいたが、最近では頼んでもお断りされてしまうため勝手にうろつく様になった。
楓の本丸でも基本的に朱里は自由に動けるようになっているのでお互い様だと少し前に笑って話していたところである。
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