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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


「だから、唯一可愛い好きなモノで、朱里って言ったの」
「そっ、れもっ、なんかちがうっ!」
「何も違わないだろ? 今更手放せないくらいハマってるモノだしな」
「うぅっ……楓さん、意地悪っ」

耳元で囁く楓に、首筋まで真っ赤に染めた朱里が涙目で睨んでくるのを受け止め、喉奥で笑う。
支えるために回した腕をぎゅっと狭めて抱きしめれば、朱里の腕も楓の背に回って抱きしめ返してくるのが心地いいと目を細める。
楓は首筋に紅く染まった顔を隠す様に擦り寄ってくる朱里の髪をやんわり撫でながら、その感触を楽しむ。
幼い頃の好きな物はその辺りの子供と変わらなかった。父が好き、母が好き、ハンバーグが好き、犬、猫、可愛い物。
歳を重ね父の変質した姿に気付くにつれ、それらのほとんどが好きな物から除外されていった。
犬も猫も父の好きな物だから、同じ物は好きにならない、好きじゃない、そうして凝り固まった楓の思考は今はまたゆるゆると崩されつつある。
恥ずかしがりながらも腕の中に納まって己の好意を受け止めてくれる可愛い存在のおかげで。

「今度朱里の好きな物教えて」
「ん……」
「俺も、同じ物好きになれるといいな……」
「うん」

甘えるように囁く楓に、チラリと視線を上げた朱里がふんわりと微笑む。
まだ頬は紅いままだが同じ物を好きになれたら嬉しいと、笑ってくれる笑顔に楓も微笑み返した。
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