第1章 私は貴方に恋をした
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ある日の楓の本丸にて、執務が終わった楓は朱里とのんびりと過ごしている所だった。
「そういや、朱里の好きな物とかそういうの聞いたことないよな」
「ふぇ?」
「いや、こうして付き合うようになってからも、その前もオシャレとかの好みは聞いたけど食い物とか、他の話題はあんましてなかったろ?」
「そういえば……そう、かも? じゃあ、楓さんの好きな物ってなんですか?」
「朱里」
「えっ?! あ、いやっ、そ、そうじゃなくてっ!」
ふと思いついた、という風に呟いた楓の言葉にきょとんとした表情で見上げてくる朱里を撫でながら、楓はもう少し言葉を足して思いついた内容を説明する。
朱里の方も言われて会話に思いめぐらせたのか、同意した朱里が興味津々に聞いてくる。
楓がその問い掛けに真顔で即答すると、目を大きく見開いた朱里がその意味に気付いて顔を朱に染めながら慌てだす。
その様子を楽しげに眺めている楓に気付いて、朱里が頬を膨らませるとするりと腰を引き寄せた楓がその身体を膝の上に抱き上げる。
「嘘はついてないだろ?」
「そうだけど、そうじゃないもん」
「ふふっ、まぁ、でも俺の好きなもんって可愛くもなんともないぞ?」
「なんで?」
「食いもんだと、するめとかジャーキーみたいな酒のつまみが好きだし、食事系なら四川料理だから」
「……可愛くない」
膝の上に乗せた朱里の顔を覗きこみ、ちゅっと軽く鼻の頭に宥めるように口付けながら言えば拗ねた表情と声が返ってくる。
それに思わずという風に笑いながら朱里が期待したのだろう内容を否定すれば、不思議そうな表情で首を傾げて問い返してくる。
楓は内心で可愛いなぁ……とその様子に和み、髪を撫で梳きながら好きな物を挙げてみる。
見事にオヤジ好みだと自分でも思っている楓だが、案の定朱里も思ったらしく眉間に皺が寄った渋い顔をする。
とはいえ、この年齢になって可愛い物はともかく子供味覚では色々と残念じゃないかとも思う。
楓は朱里の様子に苦笑しながら、眉間に寄った皺の上にまた口付けを落とした。