• テキストサイズ

私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


フッと笑みを零し身体を元に戻すと手を取ったまま反対の手でほつれて零れ落ちた髪をゆったりとした動作で耳に掛けてから漸く手を離した。

「朱里?」
「あっ、えっ、えぇっ?!」
「ふふ、こんなに可愛い子、お姫様扱いしなきゃ、ね? さて、夕飯は食べたのかしら?」
「昼ごろから出かけられてたので召し上がってないと思います!」
「あら、そうなの? なら用意するからとりあえずお風呂お上がりなさいな」

口をパクパクと開閉して動けないのを横目に尋ねた呉羽にすかさず朱里の本丸付きのこんのすけから返事が返る。
それに頷いて傍に控えていた――むしろ呆れてしまい口を挟めなかったのだが――明石に朱里の案内を任せて呉羽は着替えと食事を用意すると言い置きさっさと動き出す。
朱里の本丸付きのこんのすけは朱里についてお風呂に向かい、明石に再度お礼を告げてから本丸へと帰って行くのを明石は複雑そうな表情で見送った。
ちなみに、明石は入口で待機である。もちろん、他の刀剣たちを入れないためではある。
数分後、朱里の着替えを持った呉羽が現れて脱衣室の中へと入って行くのを複雑な顔で眺めている明石。
中からは軽い会話の後、すぐに出てくる呉羽にホッと安堵してしまうのは致し方ない。

「何よ」
「……なんでもありまへん」
「さすがに初対面同然で襲ったりしないわよ? 面白そうな子だし、綺麗な身体してそうだとは思ったけど。第一、それは貴方も思ったんでしょ?」

ぐうの音も出ない明石は、脱衣室から出てきた呉羽と顔を合わせた途端に告げられる言葉にがっくりと肩を落として力なく首を振る。
そんな明石を放った呉羽は朱里が出たら呉羽の自室へ連れて来るように告げてその場を去っていく。
光忠は遠征中であり、食事の腕としては本丸内では呉羽が一番出来るのである。ある程度の人数に教え、光忠を鍛刀してからは滅多に厨には立たないが刀剣たちが強請れば文句も言わず作ってくれる。
そういう点ではマメであり優しい人間であるとは思っているが、非常に複雑な内心を抱える羽目になった明石である。
そうして呉羽が出来上がった食事を手に自室に戻る頃、朱里も湯から上がり明石の案内で部屋へとたどり着いていた。
/ 116ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp