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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


「ぐっ……ひっでぇ……」
「大丈夫ですか?」
「あんま、だいじょぶじゃない……が、蹴られたとこは強くはなかったし足の裏だった」
「ならば怪我はなさそうですね」
「ないと思うけど、疲労困憊デス」
「でしょうね。朱里、稽古場は暫く誰も来ない様にしますから、楓の介抱をしてあげなさい」
「ふぇっ?! で、でもっ!」

脇腹を抑えて呻いた楓を背中に朱里を引っ付けたままの数珠丸が覗き込む。声を掛けられて答える楓に、素気無い言葉を掛けてくる数珠丸も相応に怒っているのか、呆れているのか。
それでも朱里を置いていってくれるというので、楓は片腕で目元を覆いながらも口元をゆるませる。
しかし、続いた朱里の悲鳴のような声に腕をどけて、どっこいせと身体を起こすと朱里の方を見た。

「朱里?」
「やっ、だってっ!」
「……朱里は俺が嫌い?」
「そんなことっ! でもっ……」
「数珠丸」
「はい。では、後はよろしくお願いします」

数珠丸の背中に隠れたままの朱里に、思わず尋ねれば必死に否定の言葉が返ってきたがその背から出てくる気配はない。
楓が数珠丸を呼ぶと心得た様に朱里を背中から引っぺがした数珠丸が、その身を楓に引き渡して稽古場を去っていく。
もちろん、他の刀剣たちは試合が終わった頃には散り始め今は誰も居ない。

「朱里」
「……」
「朱里、とりあえず俺のこと嫌いじゃなかったらここ来て」

楓が声を掛けても固まって背を向けた朱里はピクリとも動かない。どうしてそうも落ち込んでいるのか、見当もつかない楓は身体を起こすと自分の横をペチペチと叩いて促す。
朱里も嫌いじゃないと即答しただけあり、その誘導にはしたがって座るがやはり顔を見せはしない。
楓はどうしたものかと考え、ひとまず後ろから抱き着いて腰を引き寄せると横から顔を覗きこむ。

「何落ち込んでる?」
「……だって、私、楓さんに対して凄いだらしない」
「は?」
「昨日……」
「あー……なんとなくわかった。けど、それは別に朱里のせいじゃないだろ? 俺がそうなるように教えたんだから」
「……え?」
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