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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


楓の方は受け流すだけで既に相当体力を使っているのか汗だくで息を切らしているが、さすがに自分から引く気は今更ないので手を服で拭い木刀を持ち直す。
両者のにらみ合いはじりじりと続き、いつの間にか集まった他の刀剣たちがその勝負を見学している。

「やっ!」

拮抗したにらみ合いの中、先に動いたのは楓で間合いを詰めて木刀を振り上げる。動作は最小限に、急所を狙って降ろすスピードは人間にしてはそこそこだが、膝丸には通用しない。
赤子のようにいなされるが、楓もそれでバランスを崩すことなく数を打ちこんでいく。

「くっ、はっ、くそっ!」
「人間にしてはなかなかやるが、まだまだだなっ!」
「うるせぇっ! 刀剣のお前と一緒にされてたまるかっ!」

隙を突かれ打ち込まれたところを辛うじて受け止めながら、お互いに言い合い鍔迫り合いをする。
筋力も、それを補う霊力も、今の所楓には足りない。だがしかし、大分手加減され始めているので怒りは収まりつつあるのだろう。
半分以上諦めも入っているのだろうが、それでも許せないことがあるのは楓にも朱里をかっさらう男という自覚がある分理解は出来るのだ。
ギリギリと力で押し負けてきたところで大きくふり払われて楓はそれ以上堪えられず後ろに吹っ飛ぶ。
壁に激突する前に、回り込んでいた明石が岩融などにも声を掛けてくれていたので受け止めて貰えたが、最悪あばらの一本、二本は逝っていたかもしれないと思った楓は僅かにぞっとする。
ハハハ、と口から出るのは空笑いだが、やはり引くことだけは出来ない。
中央に戻ろうとして、膝丸が深いため息と共に木刀を収めるのを見て、楓はその場で大の字に倒れ込む。

「あーっ! くそっ、もう暫く動けねぇっ」
「主はん、お疲れさんどす。運びます?」
「……暫くほっといてくれ」
「へい、したら、執務出来るもん片付けときますわ」
「おー……頼む」

気が抜けた途端、手足が震えて動けなくなった楓をのんびりとした口調で明石が確認する。
運んでもらうのもやぶさかではないが、今はとりあえず構ってくれるなという態度のそれに明石も慣れた調子で返して数珠丸に挨拶だけすると稽古場を出ていく。
膝丸はまだふてているのか、楓の傍まで来て顔を覗きこんだ後、つま先でげしっと横腹を蹴ってからその場を去っていく。
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