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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


26

酔っぱらった朱里を真っ赤な顔で膝丸が連れてきた翌朝、楓は若干遠い目をして現状から現実逃避をはかっている。

昨夜は特筆することは何もない、可愛い恋人が可愛く甘えてきたので甘い夜を過ごしただけである。
だがしかし、そこに至るまでの経緯は連れてきた人物の顔色と恋人の状態で予想が出来てはいた。
出来てはいたが、現状を予想することは出来なかった。
朝餉を済ませ自分の執務を半分ほどこなしてから朱里を送って隣の本丸に顔を出したら、速攻で首根っこを掴まれて稽古場に放り込まれた。
予想はしていたのでジャージ姿ではあるが、ここまでご立腹とはさすがに予想外である。
楓にしてみれば役得だろうに、と思うのだが元凶は自分だと言われれば確かにその通りなので受けざるを得ない。
と、いうわけで……朱里の本丸を訪れた直後に膝丸に捕獲され稽古場に拉致された楓は、ご乱心な膝丸と木刀を手に対峙するに至っている。

「えー……膝丸さん?」
「煩いッ! 問答無用っ!」
「マジか……」
「では、審判は私がしましょう」
「いやいやいや、数珠丸さんっ?!」

流石に、現役、しかも朱里の本丸ではトップクラスの刀剣に本気で向かわれたら命の保証がない。例え獲物が木刀であっても簡単に撲殺される気がする。否、気がするのではなく、確実に撲殺される。
うわー……と、楓は死んだ目をしながらも逃げ場もなく構えるしかなく、朱里はと言えば何やら落ち込んで心配を買って出た数珠丸の背中に張り付いて動かない。
楓は仕方なく骨は拾ってくれ、と明石に言い置いて深呼吸をすると木刀を構えた。
剣道と合気道をたしなんでいるとはいえ、本業である刀剣にかなう訳もなく、明石を相手に鍛錬はしているもののそれも加減されているのは十分承知している。

「どこまで持つかなぁ……」
「始めっ!」

ぼそりと楓が呟いたのと、数珠丸が試合開始の合図を発したのは同時だった。
一瞬で間合いを詰めてきた膝丸に、楓は咄嗟に木刀を握り直し横から振り切られそうなそれをガチッと受け止める。
木刀越しに走る衝撃がビリビリと手をしびれさせて、楓は顔を顰めるが直ぐに切り替して打ち込んでくるそれを続けざまに受け流す。
一、二、三、と数えその力の流れに沿って最小限で受け流す楓に、暫くしてチッと舌打ちした膝丸が一旦間合いを取る。
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