第1章 私は貴方に恋をした
03
「呉羽様、お願いです朱里様、当本丸の審神者を今夜一晩だけこちらで預かって頂けないでしょうかっ!」
連絡直後、まるで回線から飛び出すように現れたこんのすけが朱里と名乗った女性に泣き縋った状態から復活するや否や、そんな言葉と共に勢いよくお願いをされ見守っていた審神者と明石は困惑する。
どうしようか、そんな雰囲気で視線を交わした二人だったがふいっと朱里を見た審神者は、じぃっと彼女を見つめたまま新しい玩具を見つけたような表情を浮かべて再びこんのすけを見る。
「良いわよ、預かってあげる。服も歩いてきた場所が場所だから汚れてるだろうし、明日の夕方ごろにお迎えに来て頂戴」
「かしこまりまして! ありがとうございます!」
「いや、ちょい待ち、主はん! こんのすけ、この本丸は……」
「明石?」
「うっ……」
ゆったりとした仕草で片手を顎に寄せて考える仕草をした審神者が、開いた口から出てきたのはこんのすけの願いに対する是の返事。
その返事に喜んだのはこんのすけで、困ったような表情をする朱里が置いてけぼりの中焦ったのは明石だった。
慌ててこんのすけに自分の本丸について説明しようとしたが、審神者に自分にだけ判る威圧の籠った声で名前呼ばれ言葉を詰まらせてしまう。
言葉に詰まった明石をこんのすけと朱里がきょとんとした表情で見ていたが、もはやこれは決定事項であることを悟り何でもないと首を振るしかなかった。
そんな明石の様子を見て満足そうに笑った審神者が改めて朱里に向き直ると笑みを浮かべて綺麗にネイルを施してある手を差し出す。
「名乗るのが遅れてごめんなさいね。私は呉羽、この本丸の審神者よ。細川朱里さん? 朱里って呼んでも良いかしら?」
「あ、はい!」
「私のことは好きに呼んで頂戴」
よろしく、と更に笑みを深くすれば朱里は握手をするためだと思ったのか差し出された呉羽の手に自分の手を重ねてくる。
呉羽はその手を握るのではなく掬うように持ち上げると腰を折ってその指先に唇を寄せた。視線を朱里に向けたまま、指先と甲に口付ける仕草を見せると朱里の顔が真っ赤に染まる様が良く見えた。