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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


「な、何すんだっ! 俺はっ!」
「しーっ……。貴方が本当に朱里さんの婚約者なら、今日ご在宅であることも携帯に連絡が入るのでは?」
「そ、れはっ! 携帯が壊れたから連絡が取れなくてっ!」
「おや……彼女は番号を変えていないそうですし、壊れても番号を変えなければ貴方だって連絡は取れますよ?」

ねぇ? と、小ばかにしたような表情で楓が告げると、細身の若い男性の顔色は赤くなったり青くなったりと忙しなく変わる。
恰幅の良い男性の方が苦虫を噛んだような表情で忌々しげに細身の若い男性を睨みつけている。
楓はその二人を眺めながら、分かりやすいことだと目を細めて長め、面白くもない茶番を繰り広げるのは早々に切り上げようと一つ息を吐いた。

「悪いが、あんたらを朱里に会わせるつもりはない。不法侵入で家探しした奴らといい、朱里が戻ったところを誘拐監禁でもしようとしたんだろうあんたらといい、クズばっかりだな。遺産なんぞ遺していかれるはずもない」
「なにぃっ?! お前に、何が判るっ!」
「わからないね、朱里の両親が亡くなった後、朱里を大切に育てた祖母のその思い出を全て叩き壊すような悪党の事情なんて、分かりたくもない」
「きっ、さまっ……あの人は朱里に騙されていたんだっ! 器量も悪い、男遊びの酷い女にっ! すべての遺産を持っていかれるなどっ!!」

恰幅の良い男性が、楓の言葉にカッとなったのか怒鳴りつけてくる。細身の若い男性も、朱里を悪し様に言っていたのか悪女の様に言うその男性に同意する。
その罵詈雑言にカチリ、と刀のつばが動く音がして隣の膝丸が今にも切りかからんと体勢を低くしているのが視界の端に映る。
楓は膝丸にもう少しだけ我慢するようにアイコンタクトしながら一歩前へ進む。すっと雰囲気が変わったのが膝丸にもわかったのだろう、大人しく体勢を元に戻すとまた見守り始める。
楓は目を細め、それまでとは違う嫣然とした笑みを浮かべついっと鉄扇を持ち上げる。恰幅の良い男性はお腹ばかりが目立つ肉付きで、背は楓よりも低い。
持ち上げた鉄扇でその男性の顎をくいっと持ち上げると上から威圧するように見下し、口角を上げて言葉を落とす。
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