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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


横に居た膝丸の方が胸糞悪さを覚えているのかイライラを募らせているが、楓はそれを制するように一歩前へ出る。

「それを聞くなら、まずあなた方が名乗るべきでは?」

にっこりと笑みを浮かべた楓が言葉を返すと、ピクリと恰幅の良い男性の表情が動く。細身の若い男性に至っては正直に嫌悪感を丸出しにしているのが滑稽だ。

「これは、これは。不法侵入をしている輩に礼儀を指摘されるとは」
「失礼。私たちは家主に許可を得て立ち入っておりますので、本日は来客の予定は伺っていませんでしたから」
「……何? 朱里が帰っているのか?」
「おや、ご在宅を知っていておみえになったのでは?」
「っ……いや、偶然だ。朱里に会わなくなって三年ほど経つからね、たまには家の状態を見ておこうと思ってきただけだよ」

楓の言葉に恰幅の良い男性が食いついてくる。楓は内心で白々しい、と呟きながら表情を崩さないまま問い返す。
楓の脳裏には、換気の為にと閉めきられていた雨戸を開けていた時の道路の脇に立っていた男がこの家の方を見て慌ててどこかへ電話をしていた風景が過る。その後、三十分もしないうちにこの二人が来たのだから、掛けた先は恰幅の良い男性の所だろう。
楓が最初の皮肉に対して、同じように皮肉で返してやると恰幅の良い男性は一瞬言葉を詰まらせたが、さすがに年の功かそれを押し隠して返事を返してくる。

「おや、そうでしたか。それで、そちらの男性は?」
「ああ……彼は朱里の婚約者だよ」
「へぇ? 婚約者、ねぇ……」
「なんだ、お前はっ! 文句でもあるのか? それより、朱里が戻ってるなら出せっ!」
「おっと……ずいぶんと乱暴な方だ」

細見の若い男性について話題を振れば、恰幅の良い男性と細身の若い男性はどこか勝ち誇ったように胸を張り、偉そうに食って掛かってくる。
値踏みするように楓が見ると、細身の若い男性は癪に障ったのか手を伸ばして掴みかかってくる。
楓はスルリと取り出した鉄扇でその手を軽く押さえ避けると細身の若い男性はよろりとよろけて、前のめりに膝丸に突っ込んでくる。
膝丸は受け止める気もないのだろう、それをごく小さな動作で避けると細身の若い男性はそのまま地面に倒れ込んだ。
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