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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


21

楓は静かに泣き続ける朱里の背を見つめながら、掛ける言葉が思いつかずただ歯を食いしばっていた。
楓が不満を口にしたところで朱里の心の傷が癒えるわけでもなく、下手をすれば余計に悪化させるかもしれないと理解しているから硬くこぶしを握り怒りを飲みこむ。
暫くそうしていた楓は、しかしあることに思い当って膝丸を呼ぶと本丸と繋いだゲート前に居る煌鴉に声を掛けた。

「松本さん、すみませんが朱里と中のことを暫くお願いします」
「ん? いいけど、どうかしたのかい?」
「ええ、ちょっと。ここがこの状態で、朱里にあんな手紙が来たなら見張りを付けている親族もいるだろうとは思っていたんですが、先ほど雨戸を開けている時に案の定居たので……」
「ああ……わかったよ。こちらは任せて」
「ありがとうございます」

楓の言葉に不思議そうに首を傾げ問い返した煌鴉が、続く返事に渋い顔をする。言った本人も非常に不本意、という表情だが見てしまったものは変えようがなく、間違いなく、来る、そう踏んで楓は朱里に気付かれない様に膝丸と共に外に出た。
庭はさすがに荒らされなかったのか、少々荒れてはいるが当時の名残を遺して華やかに草花が揺れていた。
周囲を見渡し、その景色を記憶に留めるように細部まで確認する。楓はひっそりと霊力を上昇させる修行を本格的に受けることを決めて、ついでにと持っている端末で撮影していると案の定人影が生垣の向こうから現れた。
その人影は酷く歪んだオーラに包まれて、楓には実際の顔を確認するまでに少々時間をかけさせられたが向こうは直ぐに楓と膝丸に気付いたらしい。
門扉の前に辿り着くと足を止めて睨みつけてくる。

「君たちは誰だね?」

恰幅の良い男性が不機嫌そうに楓と膝丸に声を掛けてくる。
楓はそれに一切答えずに目を細め、その男性の後ろに立っている細身の若い男性に視線をやる。
外見だけならば中の上か上の下といったところだが、その実、軽薄そうな雰囲気を纏っている。相手も楓を値踏みするように見つめ、ふんっと鼻で笑ったところを見ると格下と判断したらしい。
何をどうしたらそう判断できるのかは判らないが、歪んだ心ではまともなモノは見えまいと楓はその様子を無感動に見据える。
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