• テキストサイズ

私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


ホテルに向かって歩き出しながら楓に言われた朱里はこっくりと頷く。
ゲートをくぐる前に渡されたバッグの中には化粧直し用の口紅とハンカチなどの最低限の必需品が入っていて、準備の良さに目を瞬かせたのはついさっきである。
フォローもそつがなく、朱里は安心して楓に身を委ねたままホテルのレストランへと入る。
レストランで案内された席には既に女性が二人座っていた。片方は年配の、若干成金っぽい女性、もう片方は若いが性格がキツそうな自信たっぷりな女性が身体を強調するドレスを着ている。
同じ深紅で、似たようなスリットが入っているが着方が悪いのか少々下品に見える。堂々とストールもかけずに見せているその姿に、朱里は色んな意味で感嘆したが楓は作り笑いを張り付けたまま目は笑わずに冷やかに見ている。

「こんばんは、お待たせしました」
「あら、鴻上さん! お食事をと伝言頂いて、せっかくだからと娘を連れてきたのに……」
「……以前にもお断りしたと思いましたが?」
「あらあらあら、だって大分時間が経ったからそろそろ寂しいでしょ?」
「あいにくと、俺は彼女に夢中ですから今後は一切必要ありません。むしろ、迷惑です」
「あらあら、そんなこと言って、照れてるの? まぁ、いいわ。ね、お食事を先にしましょう!」

朱里をエスコートしたまま、楓が声を掛ければ値踏みするように朱里を見ていた年配の女性がまるで朱里をいないものの様に会話を押し進める。
楓の言葉は全く聞く耳持たない、という雰囲気で年配の女性が連れている女性の方も女豹の様な視線で楓を見ている。
朱里が不安になって楓に身体を寄せると、楓が大丈夫と言うように背を撫で椅子を引いて座る様に促す。
隣に楓が座ると、ウエイターがやってきて食事が始まった。
会話は年配の女性とその連れの女性が一方的に進めていく。朱里が疑問に思って口を開いても、まるで聞く耳を持たない様子は徐々に楓の機嫌を下げていく。
マナーもあまり良くなく、食べ方もお粗末だ。丁寧に、ゆっくりと食べ進め時折控えめに声を掛けてくる朱里とつい比較してしまう。
/ 116ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp