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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


朱里は俯いていた視界にそれが入り背に布地がかかった感触を受けるとほっとした表情で、漸くそろそろと視線を上げた。
そこには、身体のラインによく合う細身のブラックスーツと光沢のあるグレーのワイシャツを着こなした楓が微笑んで立っている。

「うん、今すぐ食っちまいたいくらい可愛い……」
「や、やですっ! そんなことしてたら時間っ!!」
「わかってるよ、それくらい可愛くて、綺麗で色っぽいってこと」
「ひぁっ」

楓の言葉に慌てた朱里は、慌てて飛びのこうとしたが捕まり、腰を引き寄せられて耳元で囁かれ、そのまま耳たぶに口づけられつい声を上げて腰を抜かしてしまう。
支えるように回された腕に力が入り、ぐっと引き寄せられるとこめかみと目尻にも口づけられて涙目で睨みあげるが視線を向けた楓は余裕の表情だ。
可愛い、ともう一度うっとりとするほど甘い笑みで囁かれ、朱里は降参だと首筋に額を押し付けて顔を隠す。

「おーい、主はん。そろそろ行かんとあかんちゃう?」
「あー……出来るなら行きたくない、もしくはホテル直行してぇ……」
「可愛い嬢ちゃん見てその気持ちはよう分かりますけどね。とりあえず、行きはってからにしてください」
「へーい。んじゃ、行ってくる。なんかあったら呼び出すから、そん時は明石、よろしくな」
「へいへい、気ぃつけて」

目の前で繰り広げられるやり取りを遠い目をしながら眺めていた明石は、時間を確認して楓に声を掛けた。
楓の方もわかってはいるが会いたくもない人物の為にそこに行く、という行為が苦痛で少々駄々をこねる。
朱里はそんな楓と明石のやり取りに思わずクスッと笑みを浮かべると、楓に漸く笑った、と微笑まれて困ったような笑みになりつつ促されて一歩を踏み出す。
ゲートを繋いで下界に降りると、そこはホテルのすぐ近くだった。

「店で会うのも迷惑掛けるから、ドレスコード付きのホテルのレストランを予約取ったんだ」
「え……あの、私マナーとか……」
「大丈夫だよ、フォークとスプーン、ナイフは外から使う。落としたらスタッフを呼ぶ。後は楽しんだらいい。間違えても知らない振りして食べてれば大丈夫」
「そう、なの?」
「そうだよ。もし心配なら俺の方見て、俺のやる通り真似してればいいよ」
「そっか……じゃあ、そうする」
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