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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


楓は時々朱里の髪を無意識にか梳き、毛先に指を絡めて弄りながら画面の中の女性と会話を進めている。
どこか、お店の話ではあるけれど朱里にはまだ説明していない過去と繋がりのある話である。
楓はチラリと朱里を見下ろしてから画面に視線を戻すと、数日中にそちらへ行く許可を取るから日にちが判ったら伝えると告げ通話を切った。

「楓さん?」
「ん、んー……朱里、俺が初めて会った時の格好覚えてるだろ?」
「……うん、凄い綺麗な女の人だった」
「うん、それな、俺が昔親父から逃げるために立ち上げた店の為の格好なのな」
「お店?」
「そう、オネエばっかり雇って、バーっていうか、いわゆる水商売ってのをやってたんだ」

通話が切れても画面と自分の顔に視線を行ったり来たりさせる朱里に苦笑しながら、よいせっと身体を抱き直しつつ説明を始める楓はどこか遠くを見つめている。
腕の中の朱里をしっかりと抱きしめ、ゆったりとした動作で髪を梳きながら言葉を探す様に視線を彷徨わせ過去を引っ張り出す。
過去、審神者業に就く前はオネエを装ってそういう人間ばかりを集めた店をやっていた。
水商売というと聞こえは悪いが、酒好き、料理好きが集まったその店は著名人にも名前が通るほど知られる店になっていた。
楓はオネエを装って平素もそう生活していたが本来は男性であり、そういう方面に目覚めたわけでもない。
実際は父親の手から逃げ出すための方便であったので時折遠方に出かけては男に戻ることがあった。
失敗したのはそんな風に素に戻って気を抜いていた時だった。店の常連だった年配の女性に従業員だとバレたのである。
その時は事情は話さず用事があったので、と答えて終わったのだが後からどこで調べ出してきたのか実家のことを嗅ぎつけてからは何度も自分の娘や親類の女性を嗾けてきて非常に迷惑していたのだ。

「俺は辞めたってことにしてあったんだけど、ちょっと少し前にトラブった内容で相談があって顔出したら……ね」
「見張られてたの?」
「たぶんな。それか、スパイみたいなのが居たか……従業員も古参じゃなければペロッと言うだろうしな」
「それで……行くんだ」
「うん、もうこれ以上は面倒だし。だから、朱里、協力して?」
「ふぇ?」
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