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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


17

ある日の昼過ぎ、先に執務を終わらせたらしい朱里が楓の本丸に顔を出し、執務室でまだ仕事をしている楓の背中に引っ付いてまどろんでいた。
背中から腹に腕を回し、頬と胸をぺったりと楓の背中につけた朱里はうつらうつらとしており、時折すりっと頬を擦り付けて抱き着く腕に力を強めている。
楓はそうされるたびにぽんぽんと回された腕を軽く撫でながら、ゆらり、ゆらりと身体を揺らしていた。
その二人の背後には、まだ仕事中だからと近侍の明石が若干げっそりしながらも控えていて、その様子を遠い目をしながらも眺めていた。
そんな和やかな午後、突然、楓のモニターから緊急通話の連絡が入ってビクリと朱里が跳ね起きる。

「あー……なんだ、店の方なんかあったのか?」
「相変わらず呑気ですなぁ、主はん」
「もう関係ないっちゃ関係ないからな。一応、不動産的に今の店長じゃ維持できないからオーナーのままにはなってるけど、店の経営自体は譲ってきたし」
「せやったら、緊急連絡なんてなんの用なんでしょ?」
「さぁ……?」

何事かと辺りを見渡している朱里を引き寄せ、自分の膝上に抱き上げながらのんびりと構えている楓に呆れたような視線を向けた明石が声を掛けてくる。
楓は膝上に抱き上げた朱里に腕を回ししっかりと抱き込みながらのんびりと明石の問いかけに答え、不思議そうにしている朱里をそのままに通話を開始する。
画面には若干ふくよかな、少々男性のような雰囲気を持つ女性が映し出される。

「どうした?」
「あ、すみません呉羽さん。ちょっと、以前お店に来てたあの人が呉羽さんにどうしても連絡取りたいってお店に居座っちゃって……」
「はぁ? あの人って、あれか? 何度断っても娘の押し売りしてくるおばさん」
「ええ……店にボトル入れたりして売上が出るなら良いんですけど、入口に居座るもんだから営業妨害で……あんまり乱暴に放り出すと警察呼んでくるし」
「……それは、一回放り出したのか」
「放り出したというか、タクシー呼んで無理矢理おうちにお届けしただけですよ?」

困惑を現した画面の女性は、申し訳なさそうに眉尻を下げながら事情を説明した。
傍で聞いてる朱里にはちんぷんかんぷんではあるが、ひとまず声で女性が女性じゃなくオネエか男性であることに気付いて大人しくしている。
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