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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


「……楓さん」
「ん?」
「私のこと、もうそんなに好きじゃない?」
「なんだ突然。どうしてそう思うんだ?」
「だって……」

横抱きで運ばれて常なら恥ずかしがる朱里が、何か考え込んだ様子で名前を呼ぶのを受けて首を傾げる。
不安定な揺れに、首に腕を回した朱里が上目遣いに恐々と口を開いて告げられた言葉は、楓を呆気に取らせた。
どうしてそんな風になったのかと問えば、どこか言いづらそうにして視線を逸らしてぼそぼそと理由を知らされる。
曰く、嫉妬する様子がない、という物だ。

「私は! 最近じゃ……楓さんの本丸の方々にも嫉妬しちゃうくらいなのに、楓さん、全然だもん。さっきだって次郎さんと仲良さそうで、熱心に話してて次郎さんが言うまで私が近づいたのも気づかなかったみたいだし」

子供みたいだってわかってるけど、寂しい……。そう零されて、楓は頬が緩むのを止められない。
可愛らしい嫉妬はいつでも楓の独占欲やら何やらを満たしてくれて嫉妬しようがないのだが、朱里自身は気付いていないらしい。
ふっと声を漏らして笑えば、不服そうな朱里の視線が向けられる。
私室に辿り着いて中に入り縁側に出て庭に向けて腰を下ろす。朱里はそのまま膝上に抱き上げて、楓は背に回した腕の力を強めてぎゅっと抱きしめる。
少し身を屈めて胸に擦り寄る朱里の頭部にすりっと頬をよせれば、朱里が僅かに身じろいだ。

「俺だって嫉妬くらいするよ?」
「嘘……だって、私が膝丸とか数珠丸にぎゅってしてても笑って見てる」
「そりゃあ、彼らは朱里の兄だからね。俺、未だに膝丸に怒られてるし」
「そんなこと……でも、お出かけした時だって……」
「んー……余裕っぽく見せてるのは年上の意地? 俺、前にも言ったけどこれでも三十路過ぎてんの。可愛い朱里にかっこ悪いとこ見せたくないでしょ?」

少しだけ腕を緩め、視線を合わせて言えば拗ねた表情だが逸らされない視線に楓は満足感を得る。
楓の言葉が信用できないのか、理解はしていても感情が伴わないのか、拗ねたまま言い募ってくる朱里のオーラはゆらゆらと不安に揺れている。
以前はその揺れが楓自身も不安にさせていたが、今は可愛らしく見える。
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