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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


15

朱里の本丸と隣同士になってから、今まで繋いであったゲートは消えて隣り合わせの塀が樹木に変わった。
構築する霊力の範囲は変わらず楓は相変わらずマイペースに執務を行っている。
今日は自分で定めた分の仕事を終わらせたので、不意に思い立って次郎太刀を執務室に呼んで話しているところだった。

「あーら、噂をすれば……かしら?」
「ん? 次郎、どうした?」
「ふふっ、主のだーすきな彼女、おみえみたいよぉ?」
「朱里が?」

顔を突き合わせていた次郎が唐突に頭を上げ、背後を振り返った。
何かを確認するように目を細めると、ニタリという効果音が似合いそうなからかいを含む楽しげな笑みを浮かべて楓を見て口を開く。
ぽそりと落とされた声は出入口には届かないだろう小さな音で、楓もそれに合わせて声を潜ませたが続いた言葉にきょとんとした表情で目を瞬かせた。
次郎は、ここ数か月で見るようになった楓のそんな表情に柔らかく目を細め、また一つクスリと笑みを零すとそうと判らない様に頷く。
次郎がわざと顔を寄せ、不思議そうな楓の耳元に唇を寄せると大人しく耳を貸した楓とは裏腹に背後でガタガタッという物音が響いてくっと喉が鳴る。

「あっはは、やぁだ、朱里ちゃんってば、ほんっと可愛いわぁ」
「何言ってるんだ、やらんぞ」
「ふふ、分かってるって。じゃ、アタシは行くわ。例の物はちゃあんと探しておくから」
「頼む」

クスクスと楽しげに笑いながら腰を上げた次郎に、楓も立ち上がって一緒に入口に向かう。
障子を開けるとへたり込んで涙目になっている朱里が次郎と楓を見上げ、今にも泣きそうに顔を歪めていた。

「朱里、怪我してないか?」
「だ……い、じょぶ、です……ごめんなさい、邪魔……」
「してねぇよ。ほら、おいで」

楓が朱里の傍に真っ先に寄っていくのを微笑ましげに見ていた次郎は、じゃあねぇ、と声を掛けると特に何も言うことなく去っていく。
朱里の視線はそんな次郎の背を追い、そして何か言いたげに楓に向けられた。
楓はそんな朱里を見つめ返しながらも板の間に座り込むのは身体を冷やすと手を差し伸べると、軽々と抱き上げて自分の私室に向かって歩き出す。
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