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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


楓は暫くそうして朱里を落ち着かせた後、持ってきた袋の中からスコーンを取り出し、ジャムをつけてツンと朱里の唇をつっつく。

「んぐっ?」

反射的に開いた口の中に、少々強引に押し込むと驚きに目を瞬かせながらももぐもぐと咀嚼する姿が小動物の様で、ふっと笑うとまた髪を撫でる。
飲みこむのを待って顔を覗きこむと、きょとんとした表情で楓と口にしたものが入っている袋を交互に見てくる。

「味は?」
「美味しいです」
「なら良かった。久々に作ったからな」
「……え?」
「ん?」

尋ねれば不思議そうにしながらも素直な返事が返ってくるのが面白く、クツクツと笑いながら告げた言葉に朱里の表情が更に驚きに満たされる。
それを楽しそうに見つめたまま首を傾げて見せれば、どこか拗ねた顔でまた抱き着いてきたので楓は受け止めて背をとんとんと撫でてやる。
ぐりぐりと首筋に擦り寄ってくる頭をぽんぽんと撫でると、朱里を囲うように両腕を回して手を組む。
ゆらゆらと揺れるオーラは不安定で頼りなげなまま、恐怖の色は時間の経過と共に形を潜めているが不安な感情は未だ揺らいでいる。
顔を隠す様に身体を縮ませて自分の胸元に懐いている頭部に掠めるように口付けると、揺らぎが大きくなる。
楓はそれを視て、何がそんなに不安なのかと首を傾げると口づけた場所に頬を寄せて口を開く。

「朱里、何か不安がある?」
「え?」
「俺が傍に居ると不安なことがあるか?」
「そんなことっ! 楓さんが居てくれた方が安心できるよっ!」
「じゃあ、俺の何が不安?」
「だから不安なんかじゃっ!」

頬を寄せたまま静かに問いかければ、内容を理解出来なかったのか間の抜けたような声が返る。
繰り返し、もう少しだけ言葉を付け足して問いかけると今度は慌てた様に頭が上がった。楓はぶつからない様にそれを避けて見下ろすと、傷ついたような瞳で見上げる潤んだ瞳とかち合った。
安心できる、という言葉と問われる理由を探すような傷ついた瞳に、それが本心であることを理解するがそれでも揺らぐオーラに楓も心の中の不安が頭をもたげる。
口説くと決めたが、まずは朱里の心が落ち着いてからと待っていた所で気付いたその揺らぎに、自分に向けられる好意は自惚れだったかという不安。
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