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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


そんな楓をどう思ったのか、煌鴉は複雑そうな表情で見つめ一つの書類を差し出した。

「……これは?」
「鴻上家の現在の資産と楓君の相続に関する資料だよ」
「……何調べてんですか」
「まぁ、そう言うとは思ったけど……。そろそろ鴻上の呪縛から開放されても良いんじゃないかと思ってね」
「まさか……」
「そのまさかだよ。君の父上は意外と馬鹿だったらしい」
「ふっ……なんだ……あはは!」
「まぁ、母上も親類で同じ名字だったらしいから姓名が変わるわけではないけど、今後は背後を気にしなくて良いんじゃないかな?」

煌鴉が渡してきた書類には、鴻上家の資産状況もだが父親が楓に無断で作った遺産放棄の正式書類と勘当、しかも戸籍上完璧に縁を切ったという内容の書類が入っていた。
母親は既に鬼籍なので養子先は母親の実家になったようだが、そこも九十近いボケた祖父が施設に居るのみである。
名前は変わらないが親子関係すら切られているならば、煌鴉の言う通り背後を気にする必要はない。

「この書類、頂いても?」
「もちろん。で、彼女は君の大切な人なのかい?」
「ふっ……意地悪ですね。ええ、そうですよ。いつの間にか手放せなくなっていた、俺の唯一です」
「それは良かった。頑張って手に入れなよ」
「言われなくても」

書類を片手に吹っ切れた表情で笑んだ楓は、自信ありげに頷くと今度こそ煌鴉に礼を告げて朱里の本丸に続くゲートを潜る。
ゲートの先には執務が終わりかけた頃に先に行くように言っていた己の明石と朱里の膝丸、数珠丸が待っている。
挨拶とその他の一言二言を交わすと、楓は膝丸と数珠丸を見て宣戦布告する。

「膝丸、数珠丸、お前たちの主を貰い受ける決心がついた。悪いが、諦めるつもりはないので、覚えておいてくれ」

不敵な笑みと共に告げられた言葉に、言われた二人だけでなく近侍の明石まで固まったのはご愛嬌である。
動かなくなった三人を置いて、楓は真っ直ぐに朱里の元へと向かった。
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