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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


内心で訝しみながらも説明すれば、納得したような表情が返ってきてこれで終わりかと少し油断してしまったのだろう。話を朱里に戻されてピクリと肩を揺らしてしまう。
煌鴉にはそれだけでそれが触れて欲しくない話題だと分かったはずだが、何か思惑があるのか強引に踏み込まれてムッとしてしまう。
睨むように煌鴉を見れば、先程よりも強い苦笑を浮かべて楓を見ていた。

「彼女が大切なんだな」
「……当たり前でしょう、彼女は友人です。しかも女性であんな目にあったんだから心配しないわけがない。まだ寝込んでますしね」
「うん、まぁ、それもそうだけど、俺が言いたいのは楓君が彼女を異性としても大切にしてるんじゃないかってことだよ」
「どういう、意味ですか?」
「そのままの意味だけど?」

しみじみと言われた言葉のその声音に一瞬言葉に詰まりながらも呆れたように返せば、煌鴉は困ったような表情で頷きながら噛み砕くように言葉を加えてまた同じ内容を繰り返す。
楓は加えられた言葉にギクリとしながらも、しらを切って言葉を返す。
しかし、敵の方が一枚上手であるのは十二分に知っている。暫しの睨み合いの後、大きなため息と共に折れたのは楓の方だった。

「確かに、俺は彼女に特別な感情を持ってしまいましたけど、その先を求めているわけではありませんよ」
「なんでだい?」
「疲れたからです。俺の背景を知って変わっていく大切な人を、もうこれ以上見たくない」

楓は過去を振り返り自嘲的な笑みを浮かべ顔を伏せる。
オーラが見えるというのは良い事ばかりではない。時には相手の感情や体調不良などを把握でき便利なこともあるが、そればかりではないのだ。
特に楓は鴻上家の一人息子であった。鴻上要はただの政治家ではなく、旧家の出である。富と名声と恵まれてしまった容姿は、何度も何度も楓の周りに居た大切な人たちを暗く淀んだ場所に引きずり落とし沈めてきた。
立場を慮って離れていくくらいならいいが、楓の背後にある富と名声に目が眩み綺麗なオーラを纏っていたはずの人間が徐々に淀み、歪んで戻れなくなっていくのを何度も目の当たりにしてきた。
朱里がそうであるとは言わないが、可能性がないわけではないのだ。あの、綺麗なオーラが見難く歪んでいくのは楓としては自分の気持ちを殺すこと以上に苦しいのだ。
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