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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


どうやら、酔っぱらった姿を見る許可が出たらしい。
紙袋に手を伸ばしてくる朱里にそれを渡すと膝丸が先に立って晩酌する場所へと案内された。

「つまみもすぐ持ってこよう」
「悪いな」
「構わんが、酔わせたら自分で責任は持てよ」
「了解」

いそいそと酒瓶を取り出してグラスなどを用意している朱里を尻目に呉羽は膝丸と言葉を交わす。
酔わせた責任は、ということはこの後は見張っていないということだろう。
良いのか? とは思うが、許可が出たなら願ったりだと余裕の笑みで頷くと渋い顔をした膝丸が場を去っていく。

「楓さん、早く!」
「ああ、悪い。ほら、貸せ。注いでやる」
「わっ、ありがとうございます! じゃあ、楓さんのは私が注ぎますね!」

お互いに注ぎ合って乾杯という言葉と共に始まった晩酌は、普通よりやや高めの度数と思ったほど強くなかった朱里の酔いっぷりに予想より早く中断された。
それでも、酒瓶の中身が半分にはなっていたが……。


「呉羽さーん、あ、違った、楓さん!」
「ん? どうした?」
「ちゅうしたいです!」
「ちゅう? したいならすれば良いんじゃないか?」
「良いんですか?」
「良いぞ?」
「わーい! えへへ、呉羽さんにちゅー」

空になったグラスをトンッと盆の上に置いた朱里が、唐突に呉羽に声を掛けてきて、あまつさえ今にも飛びかからんとにじり寄ってきたのだ。
呉羽はさり気なく酒瓶とグラスの乗った盆を避けると、朱里の言葉に乗るように頷いた。キス魔になるとは聞いていたが、それがどの程度なのか仕事柄その手の相手をすることも多々あるが人により様々なのだ。
様子を見ていると喜んだ朱里が自分から呉羽の膝に乗り上げて跨ぐように座ってくる。ガッツリキスするタイプかと思ったが、直後に施されたのは子供のようなキスだった。

「ふふ、呉羽さんにちゅーしちゃった!」
「満足か?」
「う……? うーん、もっとしたい! 他にもたくさん!」
「ふぅん? なら、俺が教えてやろうか? 気持ちいいキス」

ちゅ、ちゅ、と可愛らしいリップ音を立てながら身体をすり寄せて子供のようなキスを繰り返す朱里に、呉羽のいたずら心が刺激されるのは仕方がない。
他のどんな人間よりも気になって、気に入っているのは間違いないのである。
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