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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


楽しげに秘密を明かす乱藤四郎に一瞬信じれずに問い返してしまったが、可愛いでしょ? と自慢気に肯定されて良い事を聞いたと口角が上がるのを止められない。
乱藤四郎としては、主自慢がしたかっただけかもしれないが呉羽にとっては楽しみが出来たのだ。
可愛いな、と無害に見える笑みとともに頷いて再び歩き出しながら算段する。
まずければ膝丸か数珠丸が止めに来るだろう。離れではない人払いした場所でなら、多少ハメを外したところで問題はない。
呉羽はそう結論付けると乱藤四郎が可愛いと自慢する朱里の様子を見てやろうと、置いてくだけのつもりだった酒を一緒に呑むことにする。

「主ー、楓さんが来たよー」

執務室に辿り着くと、障子を開ける前に乱藤四郎が声を掛ける。返事は膝丸ではあったが、丁度執務が終わったところのようで開いた障子からは朱里が顔を出した。

「こんばんは、く……じゃなかった、楓さん!」
「こんばんは。呼び辛いなら呉羽で構わないが?」
「う……でも、ほら、普通の格好してる時はちゃんと呼びたくて……」
「ふっ、そうか」

呉羽、と呼びそうになったのを言い直す朱里に源氏名での呼びを促すが、頬を染めて恥ずかしそうに言い直す理由を告げられて自然と頬が緩む。
呉羽は頷いて、それ以上は言わず話題を変えるために執務が終わったかを尋ねた。
朱里からの返事は乱藤四郎の予想通り終わったという返事で、呉羽は傍で控えていた膝丸にちらりと視線を投げてから持っていた袋を掲げた。

「女性向けの酒を貰ったんだ、一緒に呑まないか?」
「呑む!」

女性向けの酒と聞いてやはり好きなのか、ぱっと上がった朱里の顔には喜色満面の笑みが浮かび大きく頷く。
しかし、すぐにハッと何かに気付いたような表情に変わり膝丸を見た。
呉羽はその動作や表情を眺め、本当に裏表のない女性だと感心する。悪感情を持っていないわけではないだろうが、喜怒哀楽がはっきりとしていて負の感情に負けない芯の強さがあるのだろう。
何やら膝丸にお願いしているのを横目に、呉羽が柱にもたれ掛かって最終的な返事を待っていると少しして朱里が嬉しそうに寄ってきた。
呉羽が膝丸に視線を向けると、どこか諦めたような、呆れたような、仕方がないという表情を浮かべて肩をすくめてみせた。
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