第1章 私は貴方に恋をした
07
朱里が会いたがっていると言われて本丸を訪ねてから幾ばくかが経っていた。
最初の約束通り、男とバレる前の朱里同様に時間を見つけては顔を出すようになった呉羽は、女性向けの酒を貰ったので一緒に呑もうと朱里の本丸を訪ねたところだった。
「あれぇ? 呉羽さん? 今日は楓さんなんだね!」
「ああ、まぁ。朱里は忙しいか?」
「うーん、どうだろう? さっき数珠丸さんが書類整理してたからそろそろ終わってるかも?」
「そうか。邪魔するな」
「はーい、どうぞ!」
行き会った朱里の本丸の乱藤四郎に声を掛けられて足を止めた呉羽は、その言い方に苦笑しながら頷き逆に朱里の状況を問いかけた。
あの、朱里が寝込んだ後、呉羽は性別と名前について朱里に簡単に説明していた。曰く、呉羽という名前が俗に言う源氏名であり本名は楓と言う事。
性別についても諸事情にて就いていた仕事がそういう系統であって自身は至ってノーマルである事。
これらを朱里に説明してから、顔馴染みになりつつあった短刀たちにも伝えられたのだろう。短刀の一部、特に乱藤四郎は女装の時には呉羽、素の男の姿の時には楓と呼ぶようになった。
「そういえば、それ、なあに?」
一応、他者の本丸であるので勝手は知っていても一人で無闇には歩き回れない。察した乱藤四郎が案内役を買って出てくれたので、その案内について歩きながら問い掛けられて乱藤四郎の視線を辿る。
その先には持参した酒瓶が入った紙袋。呉羽は、ああ、と声を漏らすと簡単に酒だと答える。
朱里が好きかは聞いていないが、時折カクテルの話などに興味を持つので嫌いではないだろうと踏んでのことである。
呉羽の答えに足を止めた乱藤四郎は、呉羽を振り仰いでじぃっと見つめてくるのでどうしたのかと首を傾げるとにんまりとした笑みが返された。
手招きで屈めと伝えられて言われるままに呉羽が乱藤四郎の方に耳を寄せると、意外な事実が聞かされる。
「あのね、主はお酒好きなんだけど酔うとキス魔っていうのになるんだよ」
「は……?」
「あれ? 楓さんは知らない? キス魔」
「いや、それは知ってる。ほんとなのか?」
「ほんと、ほんと。皆で呑むときは酔い始めると膝丸さんと数珠丸さんが主を隔離して僕らに預けるもん!」
「へぇ……」