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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


大抵は、来る日の朝かその前日に連絡があるので、その日は呉羽も女性の格好をして朱里を出迎え時に着せ替えをして遊んだり時折カタログを一緒に覗いて買い物したりと楽しんだ。
朱里は呉羽のことをすっかりと女性として認識しているらしく、警戒心が欠片もないのを心配しているのは呉羽の近侍を務めている明石のみである。
朱里が近侍として連れて来るのは短刀のみであったが、皆呉羽と朱里が二人で居ることに特に違和感を感じないのかのんびりとしているのである。
流石に、居ない時に呉羽の秘密を暴露する勇気は明石にはなかった。

「主はん、ほんま、そろそろばらした方がええんちゃうんですか?」
「んー? でも、今更俺が言って信じるか? 胸も作りもんだって目の前で剥ぐの?」
「それはちょいグロいですけどなぁ……」
「良いじゃないか、朱里が気を許してるならそれで。それ以上求めるつもりもないしな」
「ないんです?」
「……ああ」

その日も朱里が遊びに来て、夕方ごろに帰って行ったところだ。呉羽を姉の様に慕っているように見える朱里に、そろそろ明石の方が見ているのが辛くなってきたようだ。
繰り返すようだが、呉羽が纏める本丸の明石は一般的な明石と同様にやる気はない。やる気はないが、主がこうであるからかそこそこの常識と普通の良心を持っている。
故に本日も、主を諌め止めるのも近侍の仕事、一応進言だけでもしてみるかと己の良心の呵責に耐えかねて口にしたのである。
しかしながら、主も主なのでけんもほろろに返されてはぐうの音も出なかった。
何より、最近の呉羽は格好こそ女性然とし声も作ってはいるが行動自体は男性のそれに近い。
段差があれば手を差し出しエスコートしてやり、手にマニキュアなどはしていない。つい最近、手を重ねて呉羽の手が大きいことに驚きの声を上げていた朱里である。
明石としては、なぜ気づかないのか疑問は尽きないところである。
それ以上に呉羽のこの返答にもなんら引っ掛かりを覚えた明石だが、口を閉ざした様子にこれ以上の押し問答は無理だと悟ってそれ以上何かを言うことはなかった。
そうした日々は順調に進み、朱里が迷子になってからひと月ほどが過ぎようとしている頃だった。
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