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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


「こんにちは! 今日は連絡なしで来ちゃっ……た……」
「朱里?」

午前中、前日にも早朝にも特に連絡もなかった故に呉羽は久しぶりに素の格好で竹刀を手に庭で素振りをしているところだった。
一通り振り終って休憩にしようかと思ったところに、最近耳に馴染んだ声が聞こえて振り返ると近侍に乱藤四郎を従えた朱里が目を見開いて固まっていた。
呉羽の格好は特殊メイクを取り去り、濃紺の剣道着でその胸元は暑かったのか肌蹴られている状態である。
竹刀を片手に収めて首にタオルを掛けた呉羽が朱里に近づくと、朱里は顔を真っ赤にして口をパクパクとさせて声が出ない程になっている。

「あーあ、見つかっちゃったか」
「だっ、どっ、どちら様ですか……?」
「ん? わからない? これなら判るかしら? 呉羽よ」

汗を拭きながら朱里の目の前に立つと少し腰をかがめて朱里の顔を覗きこむ。楽しげなその表情には悪戯がバレた子供の様な表情がチラチラと見え隠れしているが、朱里にはそれどころではないらしい。
化粧も落とし、カツラも被っていない呉羽は朱里にとっては全くの別人で、ましてや性別から違うのである。
声なき悲鳴が席を外していた呉羽の近侍、明石に届くはずもなく近づいた呉羽に朱里からかかった言葉は非常に間の抜けた問い掛けだった。
呉羽の方はその驚き振りに満足して、特にとぼけることもなく首を傾げるといつも朱里の前でしてみせる女性の時の仕草と声音で答えてやる。
すると、朱里は見開いた目を更に大きくして言葉を失くした。ふらりとよろめいた所を支えたのは近侍として付いてきた乱藤四郎で、主の驚き振りというか焦燥振りに驚きを隠せない。

「えっ、えっと……」
「朱里の所の乱か。悪いが、朱里は具合が悪いみたいだ連れて帰ってやってくれ」
「あ、う、うん! で、でも……」
「俺のことは気にしなくていいから、とりあえずは膝丸と数珠丸にバレたって伝えたら状況は解って貰えるだろうさ」
「わかった! えっと、その、呉羽さん、なんだよね?」
「ああ。ほら、朱里が歩けるうちに戻っとけ。抱き上げるのはきついだろ」
「うん、またね!」
「またな」
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