• テキストサイズ

私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


44

蛟の訪問から数日後、楓は朱里の様子を伺いながらも心を決めると本人を前日から泊まりに誘った。
互いの本丸に泊まるのは日常になりつつあったので、朱里も抵抗なく泊まったのが前夜。
早朝、まだ朝陽が昇り切らない時間に目が覚めた楓は腕の中の温もりにほっと気を緩め、その頭頂に口付ける。

「朱里……」
「んぅ……? かえでさん?」
「おはよ」
「ん、はよ……」

暫くは静かに寝ている様子を見ていた楓が、そっと名前を呼ぶとそれに反応した朱里が薄らと目を開ける。
寝起きは悪くなく、昨夜は特に無理をさせることもなかったので寝ぼけ眼ではあるものの、朱里はぐずることなく目を覚まして擦り寄ってくる。
ぎゅっと抱きしめてから、楓がそのまま身体を起こすとつられて朱里の身体も起きる。
いつもなら二度寝を促されて寝る時間だからか、朱里が不思議そうに顔を上げた。

「どうしたの?」
「ん、ちょっとな……。朱里、寝直す前に庭に行こう?」
「お庭?」
「そう、朱里のおばあさんの庭」
「いいけど……」

不思議そうな表情の朱里に着いてからの楽しみだと、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた楓は互いに着替えてからその手を引いて庭に面した縁側に出る。
季節を止めるでもなく、その時盛りの花々が順に咲き乱れ散っていく庭は時の流れを謳い見事な景色を作り上げている。
二人並んで立つと暫く眺めてから楓が朱里を呼んだ。応えて顔が上がるのを待って、楓はそっと朱里の両手を自分のソレで取って口を開く。
朱里の方も、見下ろす楓の表情が少しだけ緊張したような、とても真剣な表情だったので静かに言葉を待っていた。
楓は一つだけ深呼吸すると片手を一度放してポケットに入れるとあるものを出した。それから、朱里の両手を持つ手を左手だけに持ち替えて胸元まで持ち上げる。
朱里が不思議そうに見つめる中、楓がスルリとその細い薬指を通したのはシンプルだがデザインの凝った、少し前に購入して置いたあのリングだった。

「え……?」

指を滑り、その根元に納まったシルバーのそれに、朱里が戸惑いの声を上げる。
楓はそれを見ながらそこに納まったリングに軽く口づけながら朱里を見つめ言葉にする。
/ 116ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp