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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


42

夜の帳が降りる。楓は着飾らせた朱里を連れて自分の生まれ育った時代の下界に降りていた。

「楓さん、これからどこに行くの?」
「ん? 俺の店。っても、審神者になるのに経営のほとんどは今のママに譲ってあるけど」
「楓さんのお店? えーっと……その、格好、いいの?」
「ああ、客として朱里を見せびらかしに行くんだからこれで良い」
「見せびらかすって……」

腰を抱かれゆっくりと歩調を合わせて歩く楓に、不思議そうに行き先を問いかけた朱里が最終的に頬を染めて肩に頭をすり寄せる。
それをクスクスと笑いながら受け止めながら楓がエスコートして歩くのはその時代の夜の街。
きらびやかなネオンに照らされて、様々な男女が入り乱れるその場所でも楓と朱里は人の視線を集めている。
その二人が最終的に立ち止まったのは、その夜の街でも一流の部類に入る店だった。扉の中へと姿が消えると、周囲から感嘆の吐息が漏れていたが二人は知らない。

「いらっしゃいま……せ……え? ちょっ、オーナー?!」
「よぅ、今日は彼女連れてきたからボックス席で頼むな」
「えっ、ちょっ、かっ、はぁっ?!」
「おいこら、営業中じゃねぇのか」
「っ……ご、案内いたします、わ」

扉の向こう、潜った先で出迎えたのはその店のママであり楓の素顔を知っていて、更に徹底的にその素顔を隠し通していることを知っている人物だった。
男の姿で小柄な女性を伴って笑んでいる楓に、そのママが素っ頓狂な声を上げるのは致し方ない。しかし、楓はそれをさらっとスルーして自分の要求を告げる。
オーナーという言葉に店員の視線が一瞬集まるが、躾けの届いたその店は次の瞬間には自分のお客へと戻り、むしろ視線を向ける客のそれすら上手く反らせていく。
一人目を白黒させているママに、楓が目を眇めて低く言えば、漸く冷静さを取り戻したママがVIP席へと案内していく。
他の客からは見えづらい位置に作ってあるボックス席は、座り心地の良いソファが置かれている。
案内したママと、おしぼりやメニューを持ってくる店員。全て美しい女性なので朱里の視線が楓と接客をする女性たちを行ったり来たりする。
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