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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


ぐりぐりと擦り寄ってくるのに頬を緩め、髪を撫でると顔を上げた朱里がにこりと笑い、つられて楓が柔らかく笑む。

「執務終わったのか?」
「ん、あとちょっとあるけど、楓さんが来てるなら休憩する」
「いいのか?」
「うん! でも、どうしたの? 用事があった?」
「いや、朱里が好きそうなのが届いたから持ってきただけだよ」

会話を交わしながら、背に回した腕で緩く囲えば甘えるように擦り寄ってくる朱里に先ほどの嫉妬を癒されて、自然と甘い笑みになる楓に膝丸は見ない振り、数珠丸はどう思っているのか判らないが、蛟も特に何も言ってこない。
朱里は恥ずかしがることもないので、この程度の接触は普通に分類されているのだろう。つまり、蛟とのやりとりも通常運転の結果ということである。
少しだけ内心で遠い目をしながら、好きそうなものについてきょとんと首を傾げているのを見て、囲っていた手を離すとほら、と足元に置いていた箱を手渡す。
持ってきたのは朱里が好きそうな果物を使ったゼリーの詰め合わせである。最近、大学を卒業と同時に手を引いた株にまた手を出し、朱里が好きそうな物を送ってきそうな企業に投資しているのである。
もちろん、損をしても問題がない金額に限っているのでそれでどうこうなるような懐ではないが、政府を通じてこんのすけが運んでくるのを若干申し訳なく思いつつやっているのである。

「うわぁっ! おいしそう! 冷やして夜一緒に食べよ?」
「ああ、なら、後でまたこっちに来るよ」
「ん? もう戻るの?」
「俺もあと少し執務残してきたからな。終わったら戻ってくる」
「わかった。それまでに私も終わらせとくね!」
「ああ、頑張れ」
「うん!」

渡した物を確認して、嬉しそうに笑う朱里に微笑み、もう一度髪を撫でてから踵を返した。
まだしばらくは時折ああいう状態を見るんだろうなぁ……と少し遠い目をしながら、自分の本丸に戻った楓は政務を出来る限り早く片付けて朱里の本丸に戻ることにして、執務室へと入った。
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