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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


39

朱里が蛟の膝の上で執務に励む頃、楓は手土産を持って朱里の本丸に顔を出していた。
通りすがりにすれ違う刀剣たちに挨拶をして執務室に辿り着くと、いつも通り柱にコンコンとノックしてから中に顔を出す。

「ちはー」

声を掛けて入ったが、肝心の朱里は振り向かない。
蛟が何かしているのか、それとも目の前の執務に集中しすぎて音が脳まで到達しないのか、その視線はひたすら画面を追いかけている。
振り返ったのは背後で近侍としてだろう控えていた膝丸、数珠丸と朱里を膝に乗せて巻物を読む蛟だけ。
楓はえーっと? と小さな声を漏らしながらぽりっと頬を掻くと、ひとまず膝丸の隣に行って腰を下ろす。
真剣だが、どこか嬉しそうな様子の朱里に邪魔をするのを憚られたのだ。蛟は楓の移動先を確認すると何事もなかったかのように視線を巻物に戻し、慣れた様子で朱里の髪を撫で梳く。

「何、コレどうなってんの?」
「幼い頃の朱里と面識があるらしい」
「……へ?」
「両親を亡くしたショックで忘れていたそうですが、幼い頃は祖母と本家を訪れるとああしていたらしいですよ」
「へぇ……」

嫌そうな膝丸を気にも留めず、朱里と蛟の状態について問いかけた楓に端的に答えた膝丸とそれを補足するように言葉を足した数珠丸。
その内容になるほど、と納得した楓は座った場所から見える朱里の嬉しそうな表情に一瞬浮かんだ嫉妬を、けれどそっと吐き出したため息と共に見なかった振りをする。
それは、嬉しそうな朱里の笑顔を見れば止めろと割り込むのも無粋だと思ってしまうのは仕方がない。惚れた弱みかな、と苦笑を浮かべる。
暫く待ったが終わりそうになく、楓は一度帰ろうかと立ち上がった所で蛟が声を掛けてきた。

「帰るのか、小僧」
「ん? ああ、朱里の執務の邪魔をする気はないからな」
「え? うそっ! 楓さん、来てたなら声掛けてよっ!」

蛟の声掛けに楓が返すと、漸く気付いた朱里が慌てて振り返って声を上げた。その内容に、一応声は掛けたがと思いながらも口にはせず苦笑と共に悪い、と答える。
朱里が蛟の膝から降りて楓の方に寄ってくるので、楓も両手を広げて待てばぽふっと抱き着いてくる。
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