第1章 私は貴方に恋をした
頭を撫でてやると猫の子の様に目を細めて
我は水神、恐れられていても、このように懐く幼子を見たことはない。
『あらぁ、朱里?こんな所にいたの?』
『おばあちゃん!』
背後から聞こえた。聞き覚えのある声に振り向くと
嗚呼、この者の孫だったのか
『カツか』
『蛟様ごきげんよう、孫を可愛がって下さってありがとうございます』
『この子の力はお前から来ていたか』
『まあ、懐いちゃったのね』
ぎゅうっと蛟の装束にしがみつき甘える姿に
朱里の祖母はふふっと笑い
『可愛い妹が出来ましたね、蛟様』
『いもうと?朱里が?』
『妹か…成らば我も兄として共に居ようではないか』
ふんわりと優しくなる蛟の空気に
朱里の祖母は穏やかに笑い、2人の様子を視ていた。
来る度に甘えてくる朱里に心を許し、祖母に見守られ暖かい日々を過ごしていたが
両親が亡くなった報せを聞き
祖母と共に住んでいる屋敷の庭に佇む朱里の前に立っても
ショックからか蛟の姿は視えなくなっていた。
蛟の語りに、朱里はごめんねと兄を抱き締める
蛟はその頭を撫でながら
「満足したか?」
「今は、幸せなのですね」
数珠丸の言葉に、そうだな、と柔らかい雰囲気のまま頷いた
きっと、覆面のなかの顔は微笑んでいるであろう。