第23章 〇【ナイル】Family complex
酷く赤らんだ肌は足先にも及び、貴族の視線から逃れたい一心のサラはナイルの動向を見るしかない。早い呼吸が頭上から聞こえる。
そしてナイルもまた、完全に気持ちを切り替えた訳では無かった。サラの止まらない涙とその理由と、頭の中の家族を未だに天秤にかけ続けている。
しかしやるしかない状況に、ナイルはサラを抱えてベッドに寝かせた。
「し、だんちょ……」
「目を閉じていろ。俺だけに集中するんだ」
「ひ、はい……」
目を閉じれば、涙は髪の方へと消えて行った。
どうする、フリではバレてしまう。どうすれば全員を納得させ、家族を、サラを傷付けずに済む。考えろ。
いつまでも動かないナイルに貴族から再び野次が起きた。空いた天井部分から野次が次々に降ってくる。
荒ぶる会場の声に、サラは目を開いた。真っ赤になった目で、真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
「……師団長、出過ぎた事を申し上げますがどうかお許し下さい。私を、私を奥様と思いながら、奥様を愛する様にされてみては如何でしょうか。……もちろん私なんかでは代わりにもなりません、分かっています。師団長と御家族の為……早く終わらせてしまいましょう、師団長」
「申し訳ございません」、そう謝って瞳を閉じたサラ。また彼女に気遣わせてしまった。
ナイルは一瞬で頭の中のことが振り払われた。サラの顎を少し上げて、キスを落とした。
会場からは小さな悲鳴が上がり、怖いくらいに静まり返る。ガラスに反響した水音が、微かに貴族の耳にも届いているようだ。
口頭伝達をし、冗談に笑い、よく食べ、部下に指示をし、上官を気遣う部下の唇を丁寧に食む。
震える体、その手に自分の手を絡めて握ってやれば、恐れるように、徐々に握られていく。
緊張で少し乾いていたサラの唇が潤い始めた頃、ナイルは離れた。
「お前が目の前にいるのに、妻であっても他の人間を思い浮かべるのは失礼極まりない話だ。お前を大事な部下として誠意を込めて抱く。例え貴族のお遊びであってもな」
そう言うと、サラから何か返事を貰うでもなく、またキスをした。足を撫で、しばらく役目のない立体機動のベルトを外す。
首筋にキスをし、体を起こして自分の立体機動ベルトを外していく。