第23章 〇【ナイル】Family complex
「師団長、私にお任せ下さい」
前を見据えたまま話す。
「……は、何を言ってる」
「師団長には待っている御家族がいらっしゃいます。数ヶ月前、ご自宅にお招き頂いた時も変わらず暖かく迎えて頂いて本当に幸せな気持ちになりました。私も将来、師団長御家族のような……素敵な家庭を築きたいと強く思いました。私は師団長御家族の……悲しむ姿は見たくありません。独り身の何も背負うものが無い私にはもってこいです。師団長は指揮にお戻りください。終わり次第私も合流致します」
震える体に、食いしばる唇。
彼女だけを下衆共の餌食にしてたまるか。
「……俺が自宅に人を招くのは、俺が家族同然と認めた人間だけだ」
サラがその言葉に顔を上げると同時に公爵に言った。
「私達二人で今夜のショー、引き受けましょう」
「な……師団長!?」
公爵は高々と笑い、手を上げると先程の男達が下げられた。
「それでこそ憲兵団師団長殿だ!戦争事をしない、平和に怯えて暮らしている腰抜けと噂されているが……やはりワシの目に狂いは無かったようだ。さあ!諸君、お待たせして申し訳ない!今夜のショーが開演だ!!」
沸き立つ観衆、美しい身なりの貴族達からは汚い言葉が吐かれ、早くショーを進めろと野次が飛ぶ。
「師団長……っ」
「何も言うな、俺に従っていればいい」
ナイルはサラの手を引いてベッドに座らせる。既に赤らんだ肌に、潤んでいる瞳からは涙が零れた。
屈んで指で拭い、そっと、近付く。
「……怖いんだろう」
「……いえ」
「嘘をつけ。何年の仲だと思ってるんだ?」
額にキスをすると、サラから小さな悲鳴が上がった。目を強く瞑り、強く握り締められたベッドシーツには既にいくつもの線が入っている。
怖いだろう、当たり前だ。
何せ、いつも同じ場所で共に業務を行っている上官と交わり、これだけの人数を前にソレを見世物にされるのだから。
ナイルはサラのブーツを脱がせ始める。自分でやる、と手を止めさせようとするサラに「任せろ」と言う様に視線を送った。膝にキスをして、震える手を握り、「大丈夫だから」と言ってやる。