【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第1章 神の初期刀・前編(加州清光、大和守安定編)
「主ってさ、沖田くんのこと「沖田殿」って呼ぶんだよ」
「……何なの急に」
夜の刀部屋。月明かりの下、布団の上に寝転がる清光が発したつぶやきに、寝間着に着替えている途中だった相部屋の安定が怪訝な顔をして反応した。
「安定も知ってるでしょ」
「知ってるけど」
「何かさあ、知り合いみたいな呼び方だなあって」
「知り合いなんだよ」
清光の骨の抜けた物の言い方に、心底嫌気が差すとばかりに安定は顔を逸らした。しかし長年の相棒とも言える関係性にある彼のそういう態度には清光も慣れていて、特に気にする様子はない。
「でも俺覚えてないんだよ、主のこと。全然。安定は覚えてる?」
「覚えてない」
「何でだろう。沖田くんと知り合いだったんなら、俺たちが会ったことないわけないじゃん。いつも一緒にいたんだから……」
「僕に言われたって知んないっての」
「そもそもさぁ、主って突っ込みどころありすぎじゃない? 絶対普通の人間じゃないよ。ていうかそもそも人間なのかな?」
「だぁから、知らないってば」
あれ、髪紐どこいった?と辺りをがさごそと漁り出す安定。その無関心さに清光は眉根を寄せる。こういう素っ気ない態度をとりがちではあるが、安定は仕える者に忠実な刀だ。緋雨のこともそれなりに好いている。沖田と知り合いであるはずの彼のことを、なぜ沖田の刀として片時も離れずにいた自分たちが覚えていないのか、疑問を抱かないはずがないのだ。
というかそもそも、当の彼の存在自体が得体の知れない怪しいものである。不死身。反則的に強い。年齢推定千数百歳。ご丁寧に三拍子揃って、もうこの時点で普通の人間ではない。
そういう誰もが違和感を禁じ得ないほどの特異な経歴と体質とを持ち合わせているにも関わらず、刀剣たちから大きな信頼を集め慕われているのはひとえに彼の人徳によるところが大きいだろう。けれどこちらもそう馬鹿ではないから、緋雨のその特異さについて考えないわけではないのだ。
どういう過去を経てここにいるのか、どうして審神者になったのか、知りたいと思っているのは自分だけではないと思う。知ってどうにかできるものでもないだろうし、知る必要がないと言われればそれまでなのだが、そういう理屈で納得できれば世話はないというものだ。