【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第3章 審神者になった白い鬼
つらつらと並べ立てられる弁論を彼が不気味に思ったのは、それが人間が自らの命の保身の為ではなく、己の属する種をただ純粋に、冷徹に、果てしなく遠い目で客観視した上で出てきた結論であると分かったからだ。
人とは元来自らの種を、世界の頂点に君臨する至上の存在として捉えることに何の疑いも持たない生き物であったのに、しばらく見ない間にもまた「人間味」というものを失ってしまったようだった。それが喜ばしいことなのか嘆かわしいことなのか、彼にはもう判断がつかない。
「それならば、土地に憑かず人に憑き、負傷をしても霊力さえ供給され続ければ回復し精神的にも安定する付喪神、その中でも戦闘に特化した刀の付喪神で軍を構成する方が合理的と判断した次第です。審神者という霊力の供給源を主軸とし、人を模した付喪神達を使役する。歴史的に語り継がれてきた刀なら少数精鋭でも十分戦果をあげられる武力を持っていますし、また緋雨様ほどの強大な霊力があれば位の高い付喪神を複数従えることも容易でございましょう。付喪神も、人形(ひとかた)なら当時を生きる人間達に余計な影響を与えることもない」
鬼神は目を伏せた。無駄と感情を省くことは上手くなっても、やはり己ら以外の種への理解は未だ浅いままらしい。問題はそのような人の目にのみ見える場所にあるのではないのに。
「……惨いことを」
「は」
「いや、何でもない。こちらの話だよ」
聞き返す役人に、彼は気にするなという風に顔の前で手を振った。伝えたところで分かろうはずもないからだ。
確かに刀は刀のままでは戦えない。軍隊としての統率力を重視し、霊力の供給源をひとつにまとめるとするならば、刀らを主から離れ自立して戦えるようにしなくては使い物にならない。
けれどそれがどれほど愚かなことか――人ではない彼らに人の身を与えることが、元来戦の中に生まれ殺すことを糧とする彼らをどんな葛藤に落とし込むことになるか。人間はそれを想像することが出来ない。しかし故に出来の悪い子供のようなどうにも憎みきれない愛くるしさをはらむ。それはこうして無機質な変貌を遂げた今でも変わりはなかった。
「殊勝な考え方をするものだな、本当に」
「お褒めに与り光栄です。そしてもう一つの理由ですが、これは特に貴方様個人に深く関わることです」