【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第2章 神の初期刀・後編(加州清光、大和守安定編)
「……そんなこと、望んでない刀もいるよ」
熱のようにこもるやるせなさを和らげるように、袴の布と一緒に両手を強く握りしめる。この気持ちをどう伝えれば良いのかなんて皆目見当もつかなかった。けれどどうしてもはっきりとした形にして伝えたくて、伝えようとしているのだと言うことを分かってもらいたくて、知っているありったけの言葉を頭に思い浮かべながら、この気持ちを表すのにふさわしいものを選び取っていく。
「清光だけじゃない、みんな主のこと信頼してるんだ。主が思ってるようなこと、みんなは思ってないのに」
どうしてあなたの幸せを願うことは許されないのだろう。
自分たちのことをこんなに理解してくれる人はいないと、自分たちがこんなに共感を覚えられる人はいないと、皆知っているのに。
あなたと幸せになりたいのに。
しかし緋雨はいつもの優しい笑みを崩すことはなかった。困ったように眉を下げて、どこか寂しげな表情の中で唇の両端を緩く吊り上げる。
「分かっている。だからこれは、私の我儘だ」
こうするのはあくまで自分の為だから恨むのは自分にしてくれ、そう彼は言うのだった。鉄皮の面のような美しい笑顔に、嗚呼、やはりこんな言葉くらいでは彼を動かすことは出来ないのかと、静かな悲しみと悔しさが安定の目の奥をじわりと熱くさせる。
唇をかみしめて襲い来る感情に堪える安定の、涙に潤む濃蒼の目を見て、緋雨は心底申し訳なさそうな顔を作った。僅かに頬を歪ませるその表情は、自身を襲う何かの痛みを耐えているようでもある。
「すまないな、安定。これからも付いてきてくれるか、この愚かな審神者に」
そう問いながら優しい視線を投げかけてくる緋雨に、安定は泣きたいのを堪えて無理矢理に笑顔を作った。口が歪んでしまわぬよう、下唇を噛んでどうにか力を込める。
「何言ってんの……当たり前だよ」
絞り出した声は予想外に大きく震えて、それが情けなくてまた涙が目に溢れてきた。羽織の袖で一度乱暴に目を拭い、こぼれそうだったそれを誤魔化す。と言っても、視線を離さずじっとこちらを見ている緋雨にはお見通しだろうから、その時点で何の意味もないのだけれど。
「生意気なこと言ってあれだけど。僕、主のこと嫌いなわけじゃないんだから」