【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第2章 神の初期刀・後編(加州清光、大和守安定編)
震えのおさまった声でなるたけ明るく言う。そう、多少の不満はあれど緋雨を主と見上げているのに変わりはないのだ。例えこの先何があろうと、それだけはけして覆すつもりはない。緋雨はきっと「お前たちの望みの通りにすると良い」としか言ってくれないのだろうけれど。
「『沖田総司の刀』として仕える。形は違っても、愛は愛だよね」
こんな虚しい質問などしたくなかったが、それでも確かめたくて口にすると、緋雨は静かに微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと頷いた。
「ああ、勿論だとも」
勿論だとも。緋雨は自身の言葉を噛みしめるようにもう一度言った。そこでようやく、安定は自分を苛む負の感情が穏やかになっていくのを感じた。
嗚呼、良かった。それならまだやっていける。愛されてさえいれば戦い続けられる。少なくとも戦うことに意味があり、それを遂行するための一切を支えてくれるものがあるならば。少しの空しさや疑念や不安くらい、平気で捨て去って進んでいける。
例え、この人の刀になることはできなくても。
自分たちの愛がこの人の苦しみを暴くことも、癒すこともできないで、宙ぶらりんのまま行くあてを失っても。
それでもこの人について行こうと思った。だって、彼がこのまま歴史を歪変する輩と戦い続けて、過去を守り続けてたどり着くその先に、明るい未来が待っているようにはどうしても思えないから。
いつかこの人を襲うであろう不幸がどんなものであろうと、けして逃げずに運命を共にしよう。そして叶うことならそれまでに、この人を雁字搦めにしている途方もない哀しみ、苦しみに寄り添えるくらいにはなっておきたい。気休めでも、一時のまやかしでも、こうして尽くしてもらっている分に少しでも報いられるように。
そう思う程度には、自分も緋雨を好きでいる。だからこれも、ひとつの愛の形なのだ。そう自らに言い聞かせるように、無理に顔に力を入れて緋雨に笑いかける。緋雨もそれに答えるように微笑んで、清光を慈しむ手はそのままに、もう片方の手を襖の傍に立ったままの安定の方に伸ばした。
「おいで」
まるで人の親が子に呼びかけるような、包み込むような優しい声だった。緋雨の行動に一瞬軽く目を見張った安定だったが、その不思議な引力のある声に吸い寄せられるようにして主君の傍へ歩み寄り、立て膝をついた。
