【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第2章 神の初期刀・後編(加州清光、大和守安定編)
安定は何も言い返せなかった。完全なる図星だ。人間としての体に順応し、それ相応の扱いを受けたいと思う反面、刀として、「物」としての矜持に固執している部分も確かに自分の中にはある。
形にできなくても、届かなくても、報われなくても。あの頃は主君の近くに置かれ、一緒に戦わせてもらえるだけで幸せだった。それは人間の肉体を得て、靄のように曖昧だった様々の思いに名前が付いて、それを表現する術も知った今でも変わらない。いや、変わることはないと思っていたい。
意思や感情を表現できるようになったからと言って、過去のことをあれこれと阿呆みたく口にするのは嫌だ。あの頃のことはあの頃のままの形にして胸にとどめておきたい。過去に経験した様々を、人間の感覚で、思考でこね回し変形させてしまうことは、かつての自分を否定することと同義であるような気がして仕方なく、だから清光のように感情や欲望を表に出すことはできるだけ避けていたのだ。
けれどそれを見抜かれていたとは思ってもみず、知られたところで障りなど何もないと開き直ることも出来ないまま、安定は緋雨の上に藍色の影を作ったまま立ち尽くした。変に力が入っているのか、少年のような華奢な肉づきの両肩が細かく震えている。
安定が何も言い返してこないと分かると、緋雨はどこか寂しげに眉をひそめて笑いかけ、言葉を続けた。
「だからその想いを、お前たちの基底を形作るものを、自分で良いように書き換えることは私にはできない。かつてのお前たちと、お前たちの主と、そこに関わる人間たちを、実際にこの目で見てきたからこそだ」
緋雨の言葉はほんの簡素なものだったが、指摘され慄いたことで瞬間的に受け身になった安定の心の内に、まるで氷水のような哀しい冷たさを伝えながら染み込んでいった。「主は僕たちを借り物だと思っている」、先ほど安定が口にした疑惑を緋雨は否定しなかった、その事実も彼の胸の内を抉った。けれどそれは怒りや激情を誘発するようなものではなくて、知らぬ間に出来た傷から血が流れ出ていくように、静かな痛みと共に諦めにも似たひとつの答えをゆっくりと安定に思い知らせていく。
(嗚呼、そうか)