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【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】

第2章 神の初期刀・後編(加州清光、大和守安定編)




 自分で思っていた以上に冷たい言い方になってしまい胸の奥がちくりと痛んだが、構わず胸の内にずっと秘めていたことを言い切る。こういう風に主君に不満を露わにするのは初めてのことで、手のひらや背中に嫌な汗が滲む。自らの存在の一切を人間に委ねるしかなかった刀の時にはまず有り得なかった経験なのだから、無理もなかった。


 しかし緋雨はそんな安定の呵責をものともせず、怖いほど美しいかんばせに染むような弱い笑みを浮かべた。


「お前は賢い子だ。よくひとのことを見ている」


 そう言われると何だか馬鹿にされているような気分になり、安定はむすりと腕を組みながら障子の桟に寄りかかる。


「それさっき清光にも言ってたよね」
「ふふ」


 緋雨がまた笑う。どうすれば彼の核心をつけるのか分からずに、安定ははがゆい気持ちで口を噤むしかない。が、その鯉口は意外にも緋雨自身が切ることになった。


「安定。お前は、」


 手は相変わらず清光の頭を撫でてやりながら、何か恐ろしい力を秘めた玉のような瞳が安定を捉える。


「前の主のことを自分から話すのは嫌いだろう」


 唐突に指摘され、安定はひゅっと小さく息をのんだ。心臓を何者かに鷲掴みにされたような感覚はおそらく、緋雨の言葉が図星だった故のものだろう。


 まさかこちらが責められる側になるとは、まして他人にはけして知られていないだろうと思っていたことが急に言葉になって目の前に突き出されるとは思ってもみず、動揺した安定は誤魔化すこともできずに丸い蒼眼をせわしなく泳がせた。


「そんな顔をしなくても良い。お前だけに限ったことでもないだろうしな」


 狼狽える安定を安心させるように、緋雨は首をほんの少し傾け表情をほどけさせた。その反動で生え際から落ちる髪の一房が揺れ、銀糸のように月明かりを反射させて閃く。


「それはお前が、沖田殿を心の底から愛しているからだ。想いが深ければ深いほど、それを口にすることで陳腐なものにしたくないと思う。お前はそういう刀だろう?」


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