【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第1章 神の初期刀・前編(加州清光、大和守安定編)
見られたくなかった。激情を隠せずに歪んでいく顔も、無様に狼狽えていく様子も、気心が知れているだけ余計に見られたくなくて、俯いたまま勢いよく立ち上がる。そのまま振り返ることもせず、襖をぴしゃりと開け放つ。
「もう良い、安定なんかに話した俺が馬鹿だった!」
「おい清光、」
「うるさい、もう知らない!!」
引き留める声を無視して部屋を飛び出す。反論も出来ないのに責められるのはもう耐えられなかった。近くの部屋の刀たちが障子を開けて、どたどたと夜中の廊下を走り去る自分をいさめるような言葉をかけてきたようなそんな気がしたが、それに反応する余裕など一欠片だってなかった。
「はあ~……っとにめんどくさいヤツ」
清光が飛び出していった部屋の中で、安定は自分の布団の上にあぐらをかいたままがしがしと頭を掻いた。自分から意見を求めておきながら、こちらが素直に応じたらあの怒りようだ。理不尽と言うほかない。けれどまあ、そういう清光の気質を知っていながらわざときつく当たった自分も大概だが。
おそらくだが、安定がああしてけしかけなくとも清光のことは緋雨がそのうち気づいて何とかしただろう。いや、もしかすると既に気づいているのか。主の聡さは妖の類かと疑ってしまうほどのものだから、まったく要らない世話だったかも知れない。
「……まあ、清光には要らなくても俺には必要だったんだよね」
安定はそうひとりごちると、見つけた髪紐でといたばかりの髪を再び束ね始めた。