第2章 episode 1
『うっッ!!』
ブチブチと千切れていく筋と腱の音が怪物の身体から聞こえる。そして開かれた身体は、真っ赤な血飛沫をあげながら、地面、そして路地裏を赤く染めていく。
それは、なんとも言い難い光景だ。
《ああぁああああ!! か、身体が!? 身体がァ!? あつい、熱いし痛い、痛い、痛い!! おのれ、その力、俺はまだ死にたくなぁぁああ―――》
悲痛な叫びは誰の元にも届かない。
怪物はフィルターが溶けていくように、跡形も無く消えた。
そう、全ては嘘だったかのように。
「貴方はこの世に居ちゃーいけないんッスよ。だから、除霊させて頂きました!」
蒸発する血液を見ながら、男は手にしていた御札をワイシャツのポケットにしまいこむ。そして、少しカールした茶髪の前髪を後ろへとかきあげると、静かに少女の方を見た。
「あらら、やはり女の子にはキツすぎたみたいっスね。」
そこには、道の真ん中で倒れ込む制服姿の少女がいた。どうやらあまりにもショッキングな光景を目の当たりにしたせいで気絶したみたいだ。ピクリとも動かない少女に、男は近づく。
「よく頑張りましたね。──しかし、有無を言わさない女性を連れ去るのはアタシの意に反しますが、これは仕方ないッス。勘弁して下さいね」
そう自分に言い聞かせるようにボヤキながら、男は少女をお姫様だっこする。そして、一瞬にして闇と共に消えた。
「──」
何も残らない現場。
消えた怪物、血液、そして男性と少女。
これでこの一夜の騒動は、二人しか知らないものとなった。
いや
「この花──ほう、あいつの者か。」
一連の流れを見ていた何者かがいた。
「どうなさいました? ハク殿」
そう呼ばれる男は、羽織りを翻すと静かに前を見据える。
そして
「──いや、なんでもないんだ。」
そう言い切った。
(ハク殿?)
「さ、お前ら参るぞ!!」
「うおぉぉおおお!!」
そんな二人の前、人間の姿をした男を筆頭に群れを成す大所帯。其の姿、魑魅魍魎の頭
──ぬらりひょん。
ハクは男性と少女が消えた場所に後ろ髪を引かれつつも、闇の中をぬらりひょんの仲間と共に進んだ。