第1章 第一回戦 六遊怪
「くちき……?そんな奴いたか?」
「直接会ってはいないが、虚圏(ウェコムンド)にも来ていたはずだ」
「はっ…知らねえな。つまりマーキングだろ?気に入らねえ……」
「!ちょ……変なこと言わないでよ」
「過去に何度かその水晶を着けているところを見ているが……内2回は俺たちに負けている」
「ダメじゃねえか。捨てちまえそんなもん」
「やめてよ!絶対嫌だからね!」
水晶に伸びてきたグリムジョーの手を掴めば、彼は目を細めて動きを止める。
「……そいつ……お前の何なんだよ」
「白哉さんは私の大切な人よ」
間髪入れずにそう言って、グリムジョーの手を強く握る。途端に鋭くなった眼光に怯むことなく見つめていると、ウルキオラに手の甲で肩口を軽く叩かれた。
「そのぐらいにしておけ……行くぞ」
こちらを一瞥する翡翠の瞳と目が合って、握っていた手が振りほどかれる。
「さぁ~間もなく試合開始です!そろそろ登場して頂きましょう!【黒崎チーム】の入場です!」
試合会場から聞こえてくる声に大きな歓声が上がる。
颯爽と死覇装の裾を翻して歩いていくウルキオラに続いて、グリムジョーも舌を打って会場に向かう。そんな二人の背中を見つめながら髪に着けた水晶に触れて、指先から伝わる霊圧にゆっくりと目を伏せた。
「………白哉さん」
この暗黒武術大会を勝ち抜いて必ず元の世界に帰ることーーー。これが私たちの最優先事項だ。
このトーナメントを勝ち上がる。勝ち上がって必ず貴方にもう一度会いに行く。
その思いを胸に水晶から手を離して伏せていた目を開いて足を踏み出した。