第5章 最終試合VS.酎
「俺はここから動かない。全力で一発殴ってきな」
そう言って本当に動かないつもりか、今の彼は隙だらけだ。
(………私ってそんなに弱く見える?)
ここまで嘗められたのは藍染以来だと目を丸くしたは、一度リングの石板を見て不意に顔を上げる。
「………なるほど」
にこりと笑みを浮かべて、柔らかい笑顔とは対照的な底冷えするようなオレンジ色の瞳を細めたは、手に持っていた斬月をリングに突き立てた。
「ーーー!?」
その瞬間、の姿が一瞬で消える。それに目を見開いた酎の目の前にオレンジ色の髪が舞い、気づいた時にはが間合いに入り込んでいた。
「ならそのハンデありがたく使わせてもらうわ」
(……口調が変わった)
(チッ……やっと入りやがったか)
ウルキオラとグリムジョーの目が細められる。
驚愕に染まる酎の目と視線が絡んだ瞬間、の両肩と背中から霊圧が吹き出し、死覇装の一部が弾け飛ぶ。巻き起こる霊圧がまるで大きく広がる翼のように幻想的な光景とは裏腹に、振り抜いた拳が酎の鳩尾に当たって霊圧が炸裂する。
『瞬閧(シュンコウ)』
「ぐッーーーー!!?」
ドゴォ!!と凄まじい打撃音が響き、酎の体がくの字に折れ曲がって場外に吹き飛んでいった。
まっすぐ観客席に突っ込んで、舞い上がった砂煙を見上げては妖艶に唇を引き上げる。
「これで少しは酔いが覚めたかしら?」
「こ……これは選手!見た目からは想像できない豪腕で酎選手を観客席までぶっ飛ばしましたーーーー!!?」
立ち上る砂煙が晴れると、瓦礫から酎の足だけが覗いている。
「そのままで行くつもりなら死ぬわよ?」
大きく広がる羽のような霊圧が稲妻のように余波を出してリングの石板を削る。髪を巻き上げながら霊圧の翼を負って立つの姿は会場の誰もが目を惹き付けられた 。