第8章 光風霽月【コウフウセイゲツ】
『信長が遺した奴等が創り上げる天下泰平とやらを見せて貰おうか』
なんて不敵に笑ってた信玄様も半年前にあっさりと逝っちまった。
不治の病に冒されて、ずっと苦しかった筈なのに……
そんな様は一切見せる事無く突然に逝った。
三ツ者は誰一人として泣きもしなかったな。
只、信玄様以外の主君に仕える心算は無いと許りに、一人二人と甲斐を離れ消息を絶って行った。
俺だってそうだ。
信玄様、貴方が居なければ俺の存在など家畜以下なんだから……。
そして上杉謙信もまるで信玄様を追う様に病で涅槃へ旅立った。
あの二人の事だ。
どーせあの世でもお互いに悪態を吐きながら酒を酌み交わしているんだろーな。
信玄様と謙信を亡くして直ぐ、真田幸村から一緒に上田へ来ないかと誘われたが俺は断った。
有難い申し出だったけどさ、今は一人で在りたかったから。
「その気になったら何時でも上田に来い。
待ってるから……」
そう言ってくれた幸村は猿飛佐助を連れて、故郷の上田へ帰って行った。
全てを片付け終えて、俺を縛り付ける柵を全部取り払って………
家畜じゃなくなった俺の足は、自然とこの安土に向かっていたんだ。