第8章 光風霽月【コウフウセイゲツ】
「………っ!」
突然足元に柔らかい衝撃が訪れ視線を下ろして見れば、其処では尻餅を着いた坊主がきょとんとした視線で俺を見上げていた。
燥いで走り回っている内に俺の脚に打つかったんだな。
歳の頃は三つか四つか……。
ガキの割には上等な着物で、如何にも大切に育てられている様が見て取れる。
「坊主……大丈夫か?」
尻餅を着いたままの坊主を抱き起こし、着物に着いた砂を払ってやっていると
「申し訳ありません。」
謝罪の言葉を述べながら一人の男が俺に駆け寄って来た。
「若君が失礼致しました。
お怪我はありませんか?」
柔らかな笑みを浮かべてそう問うこの男。
過去に安土城内に潜入した際に何度か目にした……
石田三成だ。
此奴は安土に残って居たんだな。
今でも秀吉の右腕として手腕を奮っているのか。
「いえ……大丈夫です。」
答える俺に向かって、三成はまた優しく微笑んで頷く。
そんな遣り取りを交わす俺達の間で
「三成ー……抱っこ。」
坊主が両手を拡げて愛らしく強請れば、少し困った様に息を吐いた三成が「はいはい」と抱き上げた。
じゃあ………この坊主は………
激しく高鳴る鼓動に戸惑いながら、三成に抱かれた坊主を見つめていたが
「旅のお方ですか?」
そう問われて俺は我に返る。
「ええ……そんな様な者です。」
「そうですか。
安土は初めてで?」
初めて……?
ははっ、俺は安土城天主にも入った事がある男だぜ?
吹き出しそうになりつつも
「はい。
………初めてです。」
と、俺は微笑んで答えた。